踏み込めない行政:決断能力のない環境省は南アの自然を壊すだけ!

◆国土の自然環境保護を役目とする環境省は、南アルプスでもその責務を果たしていない。このほど環境省は南ア高山帯に生息するシカの駆除について検討を始めるという(読売新聞2012年5月16日)。何を寝ぼけているのか! 今頃になって、あまりに遅すぎる! 南ア高山帯でのシカの出現は10年以上前から知られていたし、これを放置しておけば年々増加し、すぐに増えすぎ状態になり、生態系の崩壊を引き起こすことはわかりきっていたことだ。無為・無策・無責任。重病人を横目で眺めて放置するに等しい。責任の重さをしっかり自覚してもらいたい。

この無責任の理由は簡単である。これまでの行政慣行から外れそうな新しいことは、一切考えたくない、したくないという、無気力・倦怠・虚無が特徴の重い行政病に罹っているからである。環境省はじめ行政による、有識者、関係団体代表を集めた専門検討会も同じである。参集した委員の面々は行政の顔色を伺っているのだから、画期的な新構想など口にするわけがない。

環境省は射殺したシカの死体はヘリコプターで麓まで運び出す考えだという。また税金の無駄遣いをするつもりなのか。これまでの有害駆除では、死体は穴を掘って埋めるか、運び出すのをルールとしていた。その理由は、ハイカーや登山者の目に触れないようにするのが目的だと聞く。愚かな行政が考えそうなことだ。

死体は山の自然生態系に返して腐生連鎖に組み込むのが正しい。穴を掘って埋める必要などさらさらない。タヌキやキツネ、ネズミ、昆虫、ミミズ、鳥類、微生物などの多くの死肉食の野生生物が群がって、温暖期だったら数日で分解してくれるだろう。後に残るのは白骨だけだ。それも数か月、数年して跡形もなくなる。米国のイエローストーン国立公園ではそうした光景を普通に目にする。それらを目にしたビジターは生態系とはいかなるものかを学ぶのである。死体を隠していては、日本国民はいつまでたっても自然生態系の真の姿を学習できない。自然はいつも美しいわけではないし、優しくもない。快適でもない。死臭に鼻をつまんで黄泉の世界を想像するもよい。自然とは、油断すれば、すぐに襲い掛かり、生命を奪おうとする残虐な存在でもあるのだ。国立公園とはそうしたありのままの自然を知る場なのである。莫大な税金を無駄遣いしてシカの死体を隠し、自然の真実を知る手がかりを消し去る必要はない。

 

◆農作物被害防除方策についての日本獣医生命科学大学の羽山伸一教授(野生動物学)のコメント(同紙掲載)は「狩猟だけで個体数を減らすのは無理」とし、〈1〉科学的な知見に基づく個体数調整〈2〉農地への防護柵設置〈3〉生息範囲の管理、の三つを同時に行うことが必要というものである。いまさら分かりきったことをというのが率直な感想である。

防護柵の必要性はわかるが、これはすでに江戸時代から行われているし、農業者は言われなくても日常的に作っているのだから今更教授に指摘されるまでもない。それに防護柵では個体数は減らない。「科学的知見に基づく管理」というのは意味不明だ。「科学的」とは行政や研究者が素人や大衆をはぐらかすのによく使う用語である。この場合の科学的とは何のことか教えてもらいたい。「生息範囲の管理」もさっぱり意味不明である。農地は生息範囲外という程度であれば、別に教授に指摘されなくてもわかりきったことだ。科学的知見に基づく「個体数を減らす」方法を具体的に教えてもらいたいものだ。

一般的に言えば、新聞のコメントには、字数の制限があったり、記者やデスクの手を経る過程でバイアスがかかったりして、発言者にとっては不本意な場合も少なくないが、コメントする側の発言が明快でなかったり、適当にぼかそうと意図した場合には、ますますわけがわからなくなるのは当然である。責任回避のために曖昧なコメントをするくらいだったら、しない方が良心的だ。同様に行政主催の会議へ出席する場合も同様である。曖昧な態度で行政に付和雷同するくらいなら行政と付き合わない方が良心的である。

現在、狩猟によるシカのコントロールが無理なのは先刻承知である。現状を見れば明らかである。そして、もはや、頂点捕食者オオカミの再導入による食物連鎖の修復が欠かせないこともわかりきっている。野生動物学の専門家である葉山氏がどうしてオオカミ復活を口にすることを避けているのか理解できない。失礼ながら、まさかオオカミについてご存じないのでは?

中部地方の山岳地帯はどこでもシカ増えすぎ問題を抱えている。南アルプスだけでなく、中央アルプス、八ヶ岳連峰、美ヶ原、とうとう北アルプスの高山帯を越えて富山県にまで移動している。及び腰の環境省や不勉強な学識経験者たちではもうシカから自然は守れない。生物多様性保全も念仏倒れである。環境省よ、そして学識経験者の皆さん、しっかり目を開けて、早々にオオカミ復活を決断しないと!

(2012年5月23日記:狼花亭)

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