✿オオカミ 花便り✿  誤解に負けない元気印、ルピナス

大震災から1か月以上が経った。季節は何事も無かったかのように過ぎていく。復興に先駆けて花の季節が始まった。あっという間に桜が散り、ツツジの季節にバトンタッチだ。そのうち、ルピナス(のぼりふじ)の力強くあでやかな花穂が天に向かって突き上げる。この名前、何かに似ていないだろうか。そう、カニス・ルプス、ハイイロオオカミのラテン語名である。ルピナスとは花のオオカミだったのか。

園芸書によると、「ルピナス」とは、ラテン語の「オオカミ」の意味。この植物が土地を荒らすと思われていたためだが、仲間のなかには牧草や緑肥として、土地の改良に利用されるものもあり、不本意な名前とある。そうだ、タスマニアの不毛の砂丘に,どこまでも群生しているこの花を見て驚いたことがあった。競争相手が少なく塩基性の砂丘は、この植物には格好のハビタットだったのだ。原産地は地中海沿岸、北米とある。牧草に混じって異国にやってきたのだろう。

不本意といえば、オオカミもそうだ。害獣と誤解され続けて欧米各地で虐待され、そうした文化に不用意に染まった日本でも、たちまち絶滅に追い込まれてしまった。そのツケを払わされているのが、われわれ現代の日本人だ。これを知らずか、いまだに「赤頭巾ちゃん症候群」に罹ったままオオカミを怖がっている人が多い。日本の自然にとって良くない動物だと信じている人も少なくない。真実は大違いだ。オオカミは頂点捕食者として生態系の守り手である。今様に言えば、オオカミの存在なくして生物多様性は保全できない。土壌を肥沃にするルピナスと同じだ。

そういえば、わが家は「狼花亭」という。中国風に「ランホァティン」と呼ぶ。もちろん「ろーかてー」でもよい。昔訪ねたモンゴル草原のお花畑を駆け抜けるオオカミを偲んでつけた。旅館でも料理屋でもない。オオカミ派の亭主と花好きの女房が住まう、山中の単なる「林中茅屋」だ。小説「神なるオオカミ」を著したジャン・ロン氏によると、竜の起源は草原を風のように駆け抜けるオオカミだという。そうか、ルピナスの花も勢いよく天に向かって伸びる。その様は豪華絢爛、勢い溢れてドラゴンのごとしだ。

被災者の皆様よ、オオカミの活力で、群生するルピナスに劣らぬ、自然を大切にし、自然と調和して逆らわない、美しい里を創っていただきたい。そうすることは、だれもが、どこでも、力を合わせて実現すべき目標である。
(2011年4月23日記)

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