緊急保護が必要! モンゴルのハイイロオオカミの現況

トンガラグツヤ・クークヘンデュー(Tungalagtuya Khuukhenduu)
(民間法人遊牧自然保護モンゴル、プログラムコーディネーター;
Program Coordinator, Nomadic Nature Conservation, Mongolia)

http://www.nnc-mongolia.org/

  モンゴルのオオカミ

○国際的な評価: 殆ど関心をもたれていない。

○モンゴルでの評価:準危急種

○評価の根拠:
1980年のモンゴル科学院の推定では30,000頭であったが、直近の推定では10,000頭以下(Mech & Boitani 2004)。しかし、これらの推定は不確実であり、現在の生息状況を正確に知るためには広範囲な調査が必要である。オオカミの生息密度、分布、パックサイズ、生息環境に関する個体群研究はこれまで実施されたことがない。モンゴルではハイイロオオカミの数は減少しているが、その低下率は不明である。オオカミ減少の主な原因は、開発、密猟、商取引、森林・草原火災などである。このため、、準危惧種に指定されているが、更なる調査によっては、危急種、場合によっては絶滅危惧種に分類される可能性がある。
○法的位置づけ:
CITES付表II、輸出割り当て数150、毛皮及び頭部(*UNEP-WCMC、2006)
オオカミの私的飼育、産業狩猟、禁猟期の設定、取引頭数に関して法的規制はない。生息域の約13%が保護区域内にあるが、オオカミを保護するための法の執行はほとんど実施されていない。例外的に、希少野生生物と家畜が、二三の地域で保護されている。2007年から、モンゴル東部草原地帯でオオカミの狩猟と捕獲が禁止されている。
○地域的な生息状況:
モンゴルでは、オオカミは人口密集地を除いてすべての生息環境に生息している。多く見られるのは、クフエンティとクーフスグル山脈にあるタイガ生息地で、アカシカ(Cervus elaphus)とシベリアノロジカ(Capreolus pugargus)が生息している。東側草原地域の生息地には、モンゴルガゼル(Procapra qutturosa)がおり、山岳地帯生息域では、アルガリヒツジ(Ovis ammon)とシベリアアイベックス(Capra siberica)が生息している。

○主要な脅威:
主要な脅威は、個体群維持を無視した狩猟が未だに行われていることである。毛皮が商業的価値を持ち、舌を含めて、体の各部分、脾臓、距骨や歯が伝統的薬として使用されていること、加えてスポーツハンティングの対象となっている。家畜捕食によって害獣と見られており、それゆえに迫害が続いている。

◆    JWA注:モンゴルのオオカミハンティングツアーの存在は日本でも知られていますし、これに参加した人の話も聞いています。JICA派遣の専門家が、オオカミ駆除を「サハリツアー」的観光化して一石二鳥を狙うことを提案したことも聞いています。家畜に被害が出てもオオカミの保護を優先しているヨーロッパ各国とは大違いです。こうしたツアーに興味本位で参加する日本人がいるのは、恥ずかしく悲しいことです。私たちはまだ心のどこかで「自然に対して野蛮だった明治以来の一世紀」を引きずっているのでしょうか。NNCMは、こうした悲しい現状を変えるために、モンゴルの遊牧民はじめ国民に野生動物の保護、自然の保護を啓発教育することを目的に活動している民間団体です。

(訳2012, 8. 20:佐々木まり子)

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