写真で見る深刻な被害の状況 剣山・三嶺のシカ食害報告

発行: NPO法人 三嶺の自然を守る会イメージ (205)

(徳島市末広4-4-41、電話088-653-1445)

(B5版、70ページ、うちカラー写真54ページ 価格1200円)

奥深い山中でのシカによる食害を垣間見る機会はありますが、その深刻な全貌を知るのは大変困難です。ここで紹介する写真集は、徳島県と高知県の県境に位置する剣山国定公園(剣山、三嶺一帯)のシカ害による生態系破壊の惨状です。

この山地の樹皮剥ぎ被害は2000年頃から始まり、年を追うごとに加速度的に進んでいます。緑濃かった稜線のササ原は、シカの食害によって枯れ果て、一面褐色に変わり、自然林の下層植生は消滅。急傾斜地や谷沿いの至るところで、地肌が現れ、土壌侵食、斜面崩壊が発生。祖谷川の支流では渓流の濁りがはっきりとわかります。樹木は全域で皮を剥がれ、枯死、白骨化、倒伏し、とりわけウラジロモミ大木の被害が目立ちます。その結果、蝶類などの昆虫の減少、野鳥や小動物の生息環境の悪化、シカに追われたカモシカの山麓里部への移動等、生態系全体のひずみと崩壊が進んでいます。種の減少と消滅は生物多様性を低下させています。すでに遅きに失したとの印象が強いのですが、今からでも実効ある対策が急がれることを、豊富な写真が強く訴えています。

同様な破壊は日本全国の広大な山地で静かではあるが急速に進行しているにもかかわらず、無視されたり忘れ去られたりしています。時を隔てて、同じ場所で撮影された景観写真を比較することによってはじめて何が起きているかを気付かせることが可能になります。こうした写真は、同様な環境で生活しながら気づくのが遅れている地元住民だけでなく遠く隔たった地に住む人々にとっても警告の役割を担います。巻末12ページには、森林被害の復旧と保護に従事しているエキスパートによる解説が収録されています。これによると、シカ問題は、農林業対策だけでなく、崩壊が進行する、奥山の自然生態系や生物多様性の復旧・保護と共に、土砂災害の発生防止・国土の保全という新しい局面での対処が求められ、森林管理署、県、NPOなどの連携が必要だと説明しています。具体的には、シカ柵の設置維持管理の継続、大型捕獲柵の実用化、誘餌馴化したシカの銃殺方式(シャープシュウティング)の実用化などですが、さらに、より効果の高い方策が求められています。

私達日本オオカミ協会は、剣山の東部に位置する徳島県上勝町を訪れ、住民が「緑の砂漠」と呼ぶ広大な放置人工林、シカ、イノシシ問題とオオカミ再導入について住民との意見交換を行っています。オオカミ再導入についての理解が広まり、自然生態系から最終捕食者を除去し食物連鎖の環を断ち切ることによる顛末を知るための「愚かな実験」に終止符を打つために、一刻も早く、問題解決のための提案がされることを願っています。一つの特定な現場での粘り強い地道な調査活動の継続と、得られた情報を市民、県民へ提供する啓蒙活動を長期間にわたって実践されていることに敬意を表したいと思います。

(井上 守)

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