ドイツオオカミ視察ツアー報告: 「オオカミは人を避け 住民はオオカミを気にしていない!」

日本への再導入に懸念なし

 

5ドイツ・オオカミ視察ツアー一行18名、2013年7月8日から12日の現地5日間の日程を予定通りこなして帰国。現地では、ドイツ自然・生物多様性保護連盟(NABU)のオオカミ保護政策主任のマーカス・バーテンさんの案内をお願いし、ブランデンブルグ州南部およびザクセン州北部にまたがるラウジッツ地方の農地と森林、中小都市、集落が混在する地域(文化景観地域)を視察。日本からの視察団は初めてとどこでも歓迎された。

 

1○ヒツジの被害はと心配する向きには朗報をひとつ。護衛犬のピレネー犬10頭(一頭10万円)を導入して以来、被害無しという農家(羊千頭以上)での聞き取り情報は元気が出る。羊の被害よりもシカ類による牧草地の採食害(畑によっては50%に達する)の方が問題だという。北海道と同じである。日本全国で1万頭以下と僅かな羊の被害を大袈裟に心配してオオカミ復活に二の足を踏んでいる農林水産省には朗報であろう。やはり、昔からオオカミと付き合ってきた地域の知恵は凄い。百聞は一見に如かず。ツアー一行、納得!

ちなみに、ドイツのハンターの数は約40万人で横ばいであるという。日本のような年齢層の偏りもない。それでもシカ類やイノシシの農耕地被害は発生し、麦畑の中にも、狩猟用の射撃櫓、ハイシートをあちこちで見かけた。ゲーリッツ市にあるゼンケンブルグ自然史博物館(ザクセン州立)の哺乳類部長ヘルマン・アンソルゲ教授の説明では、オオカミの食べ物は大部分がアカシカやノロジカ、イノシシなど野生餌で、羊の割合は僅か1%以下とのこと。野生餌が豊富に生息しているので、オオカミの羊への関心が低いということもあるという説明。2

 

○オオカミは人を咬みません!赤ずきんちゃんの説話は嘘!

日本では「オオカミは人を咬まないか」と心配する人が少なくないが、「エッ、この美しい田園がオオカミの生息地?」というのが一行の感想。「オオカミは住民を避け、住民はオオカミを気にしていない」とはバーテンさんの説明。6

ドイツでは、人とオオカミは平和共存している。オオカミを恐れている住民はいないようである。大体、オオカミは人を恐れて人を避けている。一方、住民は共存していても姿を現さないオオカミには無関心なのです。中には、オオカミが生息していることを知らない住民の少なくないとのこと。オオカミが無害というのはヨーロッパだけではなく、北米や中国などオオカミ生息地ではごく当たり前の認識である。環境省はじめ日本の関係行政には朗報であろう。貝のように口を噤んでいるのではなく、自ら情報を集め、きちんと是非を検討したらよいのである。

 

7○教育普及活動:リーツイン町長ラルフ・ブレーマーさんの話では、地域住民はオオカミに関して賛成・反対派とも僅か、大部分は無関心とのこと。ヨーロッパの野生生物とその自然生息地の保護を目的にするベルン協定(1979)にもとづき、EU政府、ドイツ連邦政府、ザクセン州政府、行政はいずれもオオカミ保護を方針としているので、地域行政としては、住民に正しい科学的な情報を提供して冷静な判断の材料としてもらうことに努めているという。地域行政は賛成反対に偏らず「中立」だというが、オオカミは安全だということ、十分に共生可能だということを考えてもらうよう、実はオオカミ保護を方針にしているのだ。一方、ドイツNABUや地球の友ドイツなどの自然保護団体は積極的に住民に対してオオカミ保護に関する普及啓発活動を展開している10。リーツインには、オオカミ保護に協賛しているフォルクスワーゲン社が寄付した小さなカントリーオオカミ博物館(古い木造民家を移設)があり、普及教育に一役買っている。11ベルリンの女優バーバラさんの巧みで親しみ深い児童向けのパフォーマンスによる教育活動もこの一環である。バーバラさんの舞台は、立派な大理石のホールではない。何と、森林公園の一角に張られたテント小屋、積み上げられた干草のブロックが外壁という、まことに素朴なものである。風通しもよいが外からも良く見える。ここに子供たちや親たちが入れ替わりにやってくるのだという。私たち一行も行儀良く約20脚の折りたたみ椅子に腰掛け、ミミズの生態について約30分のお話を聞かせてもらった。9実用からいったら、超立派で威厳たっぷりの国立博物館や行政の博物館とは違って、こんなミニミニミュージアムが各地にある方が、提供する側も訪問する側も気楽で手軽で、普及教育効果抜群なのではないかと感心した。早速、日本オオカミ協会も今夏、熊本県高森町で「オオカミフィールドミュージアムin阿蘇」を実験的に開館。連日家族連れで賑わって成功である。8

 

○オオカミの出身地はポーランド:オーデル川を東に越えてポーランドの森林地帯を半日のバスドライブ視察ツアーに出かける。オーデル川の東側の広大な森林地帯には約400~500頭のオオカミが生息し(ポーランド全体では1000頭以上生息)、ここがドイツへのオオカミの供給地となっている。広大なアカマツとシラカバの森林地帯には小都市と小集落、それに麦畑が散在。ここでももちろんオオカミと人との関係は同じで、オオカミは人間を避け、人間はオオカミを気にしていないなのである。ポーランドでも、戦後半世紀以上にわたって、オオカミの人身害は発生していない。

ポーランドのコウノトリの巣。電柱に営巣用の補強材が設置してある

ポーランドのコウノトリの巣。電柱に営巣用の補強材が設置してある

ドイツのオオカミの生息頭数は、1998年連邦政府がベルン協定批准して以来、2000年以降増え続け、今年は140頭に達している(来年は200頭以上になるだろう)。昨年はデンマーク半島の先端部に、最近ではオランダの田園地帯にも出現し、北西部ヨーロッパ全域にオオカミが生息するのは時間の問題である。

 

○結論:「日本へのオオカミの再導入には問題無し!健康なオオカミは人を襲うことはありません!」  (詳しい参加者の感想を集めた詳しい報告はフォレストウインズ13-2で特集する予定)

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