【報告】第186回通常国会で、オオカミがとりあげられました!

 

【報告】第186回通常国会で、オオカミがとりあげられました!

増加の勢いが止まらない野生鳥獣による被害の拡大を抑え込むため、環境省は現行の法律を改正し、名称も「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」と改めて、野生動物への対策の重点を保護から管理へと転換することになりました。従来の特定鳥獣保護管理計画ではシカを抑えきれなかったことを公式に認めたかたちです。そのための法律案は3月に閣議決定され、現在開かれている第186回通常国会に提出されて衆議院環境委員会で審議が行われました。

( この模様は「衆議院TVインターネット中継」の「ライブラリ」ですべて見ることができます。)

鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律の一部を改正する法律案(186国会閣57)
http://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=43770&media_type=

その環境委員会の4月11日の回で、オオカミについての質問が出されました。しかも二人の議員によってです。
その概要を報告します。

この日は石原伸晃氏(環境大臣)、江藤拓氏(農林水産副大臣)、北川知克氏(環境副大臣)、牧原秀樹氏(環境大臣政務官)などのほか、星野一昭氏(環境省自然環境局長)が答弁に立ち、法律の改正についての質問に答えました。
質問者のうち、篠原孝議員(民主党・無所属クラブ)、続いて百瀬智之議員(日本維新の会)が、それぞれ質問のなかで日本でのオオカミ復活について触れ、国の見解を質しました。どちらの質問者も、地域の実情やこれまでの経緯を踏まえたシカ対策の課題をいくつも指摘しました(そのなかでは、例えばジビエ振興策についての篠原議員の質問に、民間活力だけでは処理設備維持が難しいことを江藤農林副大臣が認める等、興味深い答弁を聞くことができます)。そして、シカ対策としてだけにとどまらず、絶滅種の復活をトキは行ったのにオオカミはダメと種によって差別するのはいかがなものかという点や、人間が自然を管理することが果たして可能なのか、そもそも「するべき」なのか、という本質的な問いかけまでを含めて、「オオカミ復活についての真剣な議論を、議会が率先して始めるべき時ではないか」という趣旨の提言をしました。

それに対する回答(主に環境省の三名、北川氏、牧原氏、星野氏が答弁)は相変わらずの門前払いの姿勢でした。北川副大臣は、「オオカミは生態系の頂点捕食者と認識しているけれども、ニホンジカへの効果がさだかではない、人身被害発生の懸念がある、家畜被害の懸念がある、感染症などを他の野生生物に広げる懸念がある、狂犬病といった人畜共通感染症の懸念がある、以上の理由でオオカミは現在、検討する状況にないと考えている」と答弁。これに対し篠原議員は苦笑まじりに「そういう答え方はよろしくないですね」とコメント。篠原議員の言う通りで、例えば「これら5つの懸念を認識しています」という答え方ならまだしも、「5つの懸念があるから検討しません」と断言して答弁とするあたりに、国がオオカミ復活の意義から目をそらし議論を避けようとしていること、また地域の実情に向き合おうとしていないことが感じられます。篠原議員は「各県で本当に困っている。我こそはと手を挙げる自治体があれば、実験的に、パイロット的に、オオカミをやってみてもいいのではないか」と提言しました。

続いて質問に立った百瀬議員は、別の政党である篠原議員がオオカミを提言するとは思ってもみなかったようで「今回、自分は四面楚歌のオオカミ議員になる覚悟で質問を用意していたが、思わぬ援護射撃が得られた」とコメント。そして、今回の鳥獣法改正がどこまで実効性のあるものなのかをただし、法改正による狩猟の規制緩和によって地域住民の暮らしの安寧や山に親しむ活動をする人々の安全が脅かされる懸念について質問しました。また、北川副大臣が挙げた5点についても反論したうえで「オオカミを検討する段階にきていると思う」と明言しました。それに対して星野局長が「オオカミがうまくいった米国と日本では国土の広さが違う」とか「いろいろな問題があり、懸念材料がある」と反論。「科学的根拠にもとづくさまざまな課題がある。オオカミに効果があると実証されていない以上、今回はこの法改正による対策に全力で取り組みたいからご理解を」とまとめていました。

お気づきでしょうか。環境省側の答弁は「いろいろな問題、懸念」「さまざまな課題」と曖昧な文言を繰り返すだけ。あげくのはてに北川副大臣は「米国の事例を取材した新聞記者の感想」を引き合いに出して、難しさを印象づけようとする始末。JWAは2012年4月にオオカミ復活を求める94,000人分の署名を提出し、当時の担当者は「オオカミについて勉強する」と答えました(詳しくはJWAのアーカイブ2012年10月20日の記事「オオカミと生態系について勉強が進まない環境省:南ア自然保護官の発言は明治時代」を参照のこと)。またJWAは、米国の国立公園地域だけでなく、人の暮らす集落・田園がモザイク状に入り組んでいるヨーロッパでの共存事例なども紹介してきています(百瀬議員もドイツの例を指摘していました)。懸念があるならば、丸山会長の新著『オオカミが日本を救う!』をはじめとして参照できる文献や情報源は世の中に沢山あります。にもかかわらず、省独自では新しい情報を何も集めようとしなかったらしいことがこの答弁からうかがえます。これはあまりにも誠意のない態度と言わざるを得ません。

百瀬議員にも「その『いろいろな問題』の中身をひとつひとつ突き詰めて検討するべき。検討はしてほしい」と指摘され、さらに「前向きな答弁を」と迫られて、北川副大臣もさすがに思うところがあったのか「オオカミは『現時点においては』検討する状況にないが、生物多様性ということもあり、人間が自然にどこまで踏み込むかは考える意味があると思う。大自然の摂理の中で人がどう共生していくのかが今後の検討課題だと認識している」と答えていました。

「すぐにもオオカミ」となるとは期待していなかったものの、国民の合意形成には時間がかかることが予想されるだけに、国のこの頑なな態度は実にもどかしいことです。しかし、従来の門前払いの姿勢に「現時点では」とのカッコをつけさせ、また環境副大臣から「人間社会は自然の摂理(つまり生態系の仕組み)を考慮した共生社会であるべきだ」との認識を引き出したのはひとつの成果と言えると思います。これを足掛かりに、先入観に邪魔されない、科学的で誠意ある深い議論が始まることを期待したいと思います。

なにより、明治から21世紀平成の今日に至るまでの歴史上、日本の国会で「オオカミの復活」が語られたのは、今回が初めてです。これは画期的なことです。篠原議員、百瀬議員の今回の質問は、日本の自然の崩壊(それによる人間社会への取り返しのつかないダメージ)をくいとめる第一歩として、高く評価できます。

世界的な流れは頂点捕食者オオカミの復活にあります。日本でもようやくその流れが感じられるようになってきました。有権者は、生物多様性の意義を正しく理解し、偏見や既成概念にとらわれることなく未来世代の社会を真摯に考え、勇気をもって堂々と発言できる議員を支持します。各地に「オオカミ議員」がもっともっと増えて、議論の場である国会や各地の議会でさらに議論と理解が深まることを期待したいと思います。

JWAの全国アンケートで明らかなように、国民のオオカミ復活への賛同の高まり(賛成40%、反対14%)が、今国会の質問の大きなきっかけのひとつになったことは明らかだと思います。国民の思いは必ずや国を動かします。私たちJWA会員は、これからも集会など機会あるごとに人々との対話を重ね、「いろいろな懸念、さまざまな課題」にどう取り組んでいくかを共に考え、地域の声を丁寧に集めて発信していきたいと考えています。(南部)

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