里山の夏、房総半島で「オオカミ・ミニミニミュージアム」開催

 

「オオカミ・ミニミニミュージアムin房総」いざ開館!

千葉県房総半島の中央北部、市原市の自然豊かな里山地帯に、昔懐かしい小さな木造の旧内田小学校がある。もうこの校舎に誰も生徒はいない。現在は内田未来楽校として市民活動の拠点となっている。そこで、二部屋をお借りして、8月3日から16日の2週間、「オオカミ・ミニミニミュージアム」を開催した。

会場周辺の水田や里山が、激増したイノシシに荒らされて、地域住民の方々は大層困っておいでだ。獣害に対する地元の方々の意識は高く、昨年末には、近隣住民が集まって、被害対策について自主勉強会が開催されている。こうした土地柄、オオカミの復活をアピールしない手はない。昨年の阿蘇に始まり、岡山市と開催してきた「JWAオオカミ・ミニミニミュージアム」をここでも開催することにした。もちろん、獣害に悩む住民の関心を引くことになった。周辺住民だけでなく、遠くから自家用車で見学に来られた方も多かった。猛暑の夏にもかかわらず、予想以上の盛況のうちに無事に終了。受け入れて頂いた未来楽校のスタッフの皆様、日本オオカミ協会の応援ボランティアなどお世話になった皆様、ご来場の皆様方にあらためて御礼申し上げます。

房総半島の迷惑(?)野生哺乳類たち

低山が広がり気候温暖な房総半島は多くの野生動物にとって好適な生息環境に恵まれ、1980年代からイノシシ、シカ、キョン(中国原産の小さなシカ)、サル、ハクビシン等の野生動物が目立ち始め、近年激増、農業被被害とヤマビルの分布拡大が大きな問題となっている。野生鳥獣の捕獲管理に当たるハンターは減少・高齢化が進み、とりわけ、シカやイノシシなどの大物を対象にする狩猟者は少ない。千葉県の2012年度の有害鳥獣による農産物被害は総額3億8千万円に上る。現在、この被害額の半分を占めるイノシシの捕獲に力が入れられ、シカ、キョンの対策は追い付かない状況にある。特にキョンは年36%増加という繁殖力の高さゆえ、近々半島から溢れだすことが予想されている。

展示概略と啓発の効果

展示の内容は、別掲「展示会場図」に示したとおり、エントランスホールに野生オオカミの写真を並べ、「シカの生態」、「オオカミの生態」、「日本のオオカミ」、「世界のオオカミ」、「現在のオオカミ」、「ヨーロッパのオオカミ」、「イエローストーン国立公園-森を守るオオカミ」、「ドイツ・ラウジッツ地方-オオカミと人との共存」、「失われていく日本の自然景観」、「千葉県の野生動物」、「オオカミテリトリーモデル図(関東周辺及び房総半島)」、「絶滅種再導入と私達の提言」の順に、それぞれ写真、図表、地図に解説を加え、他にオオカミ関係の絵本やぬいぐるみ等を並べ、ビデオの上映を行った。

房総半島には頂点捕食者オオカミは絶滅したままなので、その復活が欠かせない。これを具体的に理解してもらうために、野生動物の生息範囲を示した房総半島全体の5万分の1地形図を広げ、その上にドイツ・ラウジッツ地方で調査されたオオカミテリトリーの形を参考に透明ビニールに面積約200k㎡の6つのテリトリーを同縮尺で花びら状に描いた(隣り合うテリトリー間には約2kmの緩衝地帯を設定)テリトリーのモデル図面を重ねた。大きな地図を使うことによって、この地域の人達が、オオカミのテリトリーに含まれることになる集落の1軒1軒や学校、病院などの公共施設の場所について具体的に想像できると考えたからである。そして、房総半島全体で約5パック(家族群)のテリトリーの展開が十分可能であり、テリトリー内ではイノシシやシカなどの被食動物の密度が適正に向かうことを説明した。

このテリトリーマップを見る前にオオカミの生態、オオカミによる自然調節、オオカミと人との共存等について、海外での実例をもとにした図版や説明など展示した。これらの展示に目を通した来館者は、くどくどした説明を行わなくても十分理解してもらったのには驚きでした。また、こうした来館者は、これまでの誤ったオオカミ観と現実の正しいオオカミの生態との落差に驚いておいでのようであった。

今回は、公共交通の便が悪い場所であったにもかかわらず、期間中に老若男女216人の来場があり、先ずは成功といったところ。地元市原市の佐久間隆義市長もお見えになり熱心に説明を聞いていただいた。来館者の多くの皆様から、オオカミについてもっと知りたい、このような企画を多く行ってほしいという感想をいただいたのには、大いに励まされた。

千葉県は大都市と荒川、利根川の2つの大河川により他地域から分断され、房総半島はさらに三方を海に囲まれ、いわば島のような閉鎖的な地理的条件なので、本州の他地域でオオカミ復活が実現しても、そこから分散したオオカミが移動してきて定着することは難しいことが考えられる。したがって、オオカミの再導入は、房総地域で独自に検討し、実行する必要がある。普通、オオカミの再導入というと、知床などの人里離れた奥地が想定される傾向があったので、深い山のない里山地帯でのオオカミ復活が理解されるか不安であった。しかし、来館者から、他地域と分断されているがゆえに、県が独自で実施を検討できる利点があるのではないかと提案され、大丈夫、十分な理解と協力が得られそうだということに気がつきました。オオカミ復活に関する賛成は、日本中どこでも40%前後、反対は僅かに14%弱ですから、房総でもオオカミ支持者は少なくないと考えられ、心配は要らないのである。

ところで、オオカミ復活は半島全域の住民が考えなければ実現できない。主に会場周辺の人たちに来場を呼び掛けて企画した。そして「来館者の感想」のように多くの賛同を得て終わった。問題点は、行政関係者の来場が少なかったこと、半島南部からの来場者が無かったことである。オオカミ復活は行政が率先して取り組む課題である。行政への積極的なアピールが必要である。今後は、もっといろいろな地区で、より広域的、組織的な活動が望まれる。 同時に全国各地でこの様な展示活動が行われ、地域の自然史や社会に則したオオカミ復活運動が盛り上がることを望みたい。

会場 内田未来楽校(市原市宿)
会場 内田未来楽校(市原市宿)

市原市佐久間市長と説明役の井上守・千代子: 房総半島の地図に描いたオオカミのテリトリーマップを囲んで説明

 

 

 

 

市原市佐久間市長と説明役の井上守・千代子: 房総半島の地図に描いたオオカミのテリトリーマップを囲んで説明

「エゾオオカミ物語」について、井上千代子の朗読と話を聞く子供たちと展示物を真剣に見る来場者
 

 

 

「エゾオオカミ物語」について、井上千代子の朗読と話を聞く子供たちと展示物を真剣に見る来場者

 

 

 

 

展示会場概要

 

 

 

 

 

 

来館者の感想

  •  オオカミの存在を誤解していました。
  • 狼について今までまちがった認識をしていたことに気付く機会となりました。
  • オオカミは人をおそわないという事・(対策があれば)家畜をおそわないという事におどろきました。
  • オオカミは、こわいイメージでしたが、ちがいました。/オオカミに対する考え方が変わりました。
  • 狼のイメージが変わりました。/オオカミが犬に似ていて可愛かったです。
  • すばらしいお話と展示を見せていただきありがとうございました。/いろいろな写真と資料を見て、オオカミのやさしさ 強さ、大切さを感じました。
  • オオカミが必要であることが良く分かった。
  • オオカミはすばらしい事を知りました。
  • 本日は短い時間でしたが、狼の生態の一端が知ることができて、とても楽しかったです。また日をあらためてうかがわせて頂きます。
  • オオカミと自然とのかかわりの一端を知ることができました。
  • おおかみの実態がある程度わかりました。
  • オオカミのなわばりが広くておどろきました。
  • 今日のオオカミ展はとても勉強になりました。
  • オオカミが悪い「もの」だとばかり思い込んでいました。これから、もう少し、オオカミのことを知ろうと思います。
  • 予想していたよりも現実的で期待のできる案であることを知りました。
  • 今まではオオカミは人間に対していたずらなどして、あんまり良いイメージではなかったんですが、ここに来て、はじめて担当者のやさしい説明を聞きながら180°オオカミに関しての偏見が変わりました。とても来て、よかったです。
  • オオカミのあかちゃんや、おおかみがまた、いたほうがいいとおもう。
  • 本格的な狼の展示を見たのは初めてです。狼に対する偏見、恐怖心を人間のうちから無くするのは大変だけれど、生態系の頂点としての狼が明治期に日本から絶滅したのが極めて残念です。
  • 先日自宅近くでイノシシを見かけたので生態系がおかしくなっているのではと感じていたので自然保護の1つとして「オオカミ」を考えてもよいのかな?と思います。
  • イノシシ等の害が出ているのは確実なのでもっとこの活動を広げ、効果が出るとよいですね。
  • いろいろな害が増えているので、今後の環境を変えるために、オオカミの復活を願います。
  • 房総地区では、イノシシ、シカ等の自然増で里山では大きな問題と聞きます。趣味の写真撮影でもこの数年山ユリがあらされてだんだんとなくなってきています。イノシシが喰うのだそうです。効果があればと思われます。
  • 参考になりました/地道なキャンペーンに感銘を受けました。
  • すばらしいミュージアムでした。もっと子供たちに見せたいですね。
  • もう少し勉強します。ありがとうございました。
  • オオカミと人の歴史や人との共存をテーマに研究をしたいと考えています。この展示会で学んだ事を活かしたいと考えています。
  • 人と野生動物の未来のため、持続可能な資源を守ってゆくために、これからもオオカミを愛し、勉学にはげんでいきたいと考えています。ありがとうございました。/息子にていねいに説明していただきありがとうございました。
  • これから注目していきますので、がんばって下さい。
  • 期待しております!
  • 再導入、繁殖ができればいいですね。応援しています。
  • こういった事を広めて、日本にオオカミが戻って来たら良いなと思いました。
  • こういうイベントを今後も開催して欲しいと思います。/皆で運動が必要である。ありがとうございました。
  • 全国的に広がることを期待しています。ありがとうございました。
  • 日本オオカミはきっとどこかに生きている!日本オオカミ協会に入会させて頂きます。
  • 市原支部を期待します。

 (報告:井上守)

 

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