美作市、有効策がないままに激化の一途!

<中四国支部便り>
岡山県美作市シカ、イノシシの高密度生息地を視察:
有効策がないままに激化の一途!

〇美作(みまさか)市一帯もシカの異常高密度地帯
美作市は、鳥取県と兵庫県に接する岡山県東北部に位置する面積約430㎢の山地帯である。人口は約2万9千人。人口減少が止まらない。現在、人口密度は67.4人/㎢と低い。市街と集落、耕作地は僅かで(23.5%)、残りは山林が広い面積を占めている(76.5%)。岡山県のシカの生息頭数は7万頭以上。このうち、美作市を含む美作県民局管内で2万5千~4万頭と推定されている。美作市の大部分ではシカが30頭/㎢以上という高密度で生息し、50頭/㎢以上という地域も少なくない(この地域の人口密度に近い)。環境省発表(2014年)の生息密度分布図ではこうした高密度地域は赤色で表示されているが、美作一帯は出血多量で瀕死の重傷を負っている怪我人のようである。この高密度は県境を越えて島根県、兵庫県に連なり、果ては滋賀県の琵琶湖周辺にまで広がっている。シカの適正密度は2~3頭/㎢であるから、この地域のシカの生息密度はその十数倍から二十倍以上、異常そのものである。
このため、森林植生の退行、裸地化による激しい土壌浸食の進行が心配されている。もちろん、シカの被害は、森林だけでなく農耕地にも及び、イノシシ害とともに、シカの食害対策無くして営農は不能になっており、農業中心の地域産業にも深刻な影響が及んでいる。美作市のシカ、イノシシによる農作物被害額は約6千万円と横ばい状態にある。これに加えて、最近では、シカ、イノシシの自動車や列車の衝突事故も珍しくない。イノシシによる傷害事故も危惧されている。このように、シカ、イノシシの異常な増加は、産業・生活に大きな脅威になっており、簡単には減りそうにない。現在、こうした、シカの高密度地帯は各地に分布し、珍しくはなくなったが、それだけに放置することはできず、全国的な対策が不可欠である。

〇もどかしい被害対策
行政は、このような深刻な状況に手をこまねいているわけではないが、有効策はなかなか見つからないようだ。その対策は、どこでもそうだが、侵入防止柵の普及と狩猟振興の二つである。
柵の普及を多額の補助金で誘導する方策も、自然条件に恵まれない山間地の農業自体の衰退もあって、糠に釘といった態で効果はもう一つである。柵の最大の難点は、うまくいっても害獣そのものを減らす効果が無いことである。美作市でも柵の建設は目立つ。大変立派なものである。しかし、「まるで自分たちが柵の中で暮らしているようだ。これでもシカやイノシシはどこかから入ってくる。電気柵は管理が大変だ」とは、道で出会った地元農業者の弁である。

道路側からのシカ侵入を防ぐ高い柵

道路側からのシカ侵入を防ぐ高い柵

 
 

耕作放棄地の囲いの様子

耕作放棄地の囲いの様子

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

狩猟は害獣そのものを減らすという点で期待されるが、狩猟者の減少と高齢化は止まらない。このままでは狩猟者がいなくなるのはそう遠くない。このため、行政は狩猟者のリクルートに躍起だが思うにまかせない。地域社会そのものが衰退していて、狩猟を後継する若者がいないからだ。そこで、規制を緩めたり、新しい狩猟方法を開発普及したり、あるいは罠猟を推奨して捕獲数を増やそうと工夫をしているが効果は思うにまかせない。罠猟は銃猟に比べてイージーだが対象を特定できないのが難点だ。シカやイノシシ以外の本来保護すべき獣類も誤獲する恐れが大きい。車道がなく、アクセスが難しい奥山での狩猟が難しいのがもう一つの難点である。美作市一帯は特に高い山があるわけではないが、アクセス条件が悪い地域は少なくない。
ジビエ加工などに多額の財政を投下して、地域振興への貢献を宣伝しているが、やはり効果はもう一つである。ジビエの特産化に力を入れているが、地域振興策としてどれほどの効果があるのか疑わしい。美作市の猟師約300人(殆どは65歳以上)の80%以上が罠猟師であり、シカの捕獲頭数(平成27年度4~12月)4,133頭のうちジビエ用に搬入された頭数は1,159頭28%。これでは、ジビエ振興は難しそうである。ジビエは、補助金に頼って、今や全国各地どこの自治体でも同様であるから、地域間の競争にも勝たなければならない。このままでは、競争に生き残るための条件である地域特産としての差別化は先ず望めないであろう。シカやイノシシが獲りきれないほど多数が生息している現在でも、ジビエ肉の価格は一般庶民には手が届かない高価格である。供給を増せば、価格は下がる。獲物が減れば、供給量も減る。需要供給原則からして、再び肉の価格は上がってしまう。その前に、ハンターが思うように増えるかどうか疑わしい。
繰り返すが、狩猟者の減少高齢化は、農山村の衰退が原因である。今や、農業従事者が日本の人口に占める割合は僅かに数パーセントに過ぎない。現在の農山村社会にこれまでのように狩猟者を輩出する土台はない。こうした変化はこれまでの日本の産業構造の改変によってもたらされたのだが、狩猟振興策はこのことを無視しているように見える。こうしたもどかしさは美作市でも全く同じである。
全国各地で莫大な財政が使われている割には、シカやイノシシは増え続けている。さすがに現場の行政は、日々、疑問ともどかしさをつのらせているが、補助金などに縛られた行政システムのもとではあからさまに自分たちの発想を口にすることはできないようである。本当に効果のある対策を実現しようとするならば、現場の担当者が現場の状況を見ながら、気兼ねなく自由にモノが言える民主的な行政環境の整備が欠かせない。地域の行政が、自由に考え、自由にモノが言える環境づくりのためには、地域住民の理解と支援、そして多様な考えが必要である。

〇決め手はオオカミ
美作市でも獣害が激化するのは2000年以降のことであるという。この原因は全国どこでも同じで、オオカミ絶滅の穴を埋めてきた狩猟者の減少、地球温暖化、森林開発や耕作放棄地の増加などが言われているが、根本的な原因であるオオカミ復活の必要性を口にする人は稀である。オオカミには、赤ずきんちゃん起源の強い偏見がつきまとっているからだ。人を襲う凶暴な蛮獣というイメージは最悪である。だが、これはすべてプロパガンダの産物で、オオカミは好んで人を襲うことはないというのが真実だ。外国から連れて来られるオオカミは外来種だから、日本の生態系や生物多様性に悪い影響を及ぼすに違いないという不安を口にする人もいる。これも偏見。科学的根拠の無い憶測である。百年前まで日本の生態系の構成者だったオオカミが日本の生態系に悪い影響を及ぼす訳はない。オオカミが生態系をはかして困ったなどという話は聞いたことがない。事実はその逆で、オオカミを絶滅させたがゆえに困っている現状を忘れてもらっては困る。オオカミ再導入こそ、生態系の秩序を回復維持し、農林業や交通事故を無くす、いわば「決め手」と言ってよい。このためには、学者、研究者、有識者、行政の間でオオカミについて科学的に、偏見なく検討してもらいたい。「オオカミ復活」を口にしただけで社会的に排斥されるような雰囲気が存在するのでは、民主的な社会とはとても言えない。ヨーロッパ中世の魔女裁判時代と変わりがない。

〇オオカミ復活への草の根運動=「辻(みちばた)談義」
オオカミ復活を成し遂げるには行政への働きかけだけでは限界がある。市民、農林業者など多くの住民の賛同の声が必要である。多くの住民の声を実現するのが、政治であり行政であるからだ。そこで、私達、JWA中四支部は、岡山県の中でも特に被害の多い美作地域を対象にして、住民と直接対話し、理解を深め合うことにした。オオカミ再導入を阻む要因の一つはオオカミが身近に居ない事による誤解である。オオカミの習性・行動・生態、欧米での復活事例や保護運動の成果を地域住民に紹介することにした。しかし、よそ者の私たちにとっては、話を聞いてもらえる住民を見つけることが第一歩になる。これには妙手はない。地道に繰り返し現地を訪問し、相手をしてもらえそうな人たちを見つけては、話しかけ、話を聞き、聞いてもらうという「辻談義」を厭わず積み重ねることだと考え、早速、開始した。あいさつに続いて世間話。被害住民も話をしたいし、聞いてもらいたいのだ。結構、話が弾む。フムフム、始めたばかりだが、手ごたえを感じる。これだったら、秋には小集会や講演会開催も夢ではなさそうだ。住民の声をまとめて議会や行政に届けることも実現しそうである。この活動は美作だけでなく、他地域でも展開することを考えている。そのうち、多くの会員が加わってもらえるものと期待している。

中四国支部 支部長 藤原 忍

Follow me!