シカ問題 « 一般社団法人日本オオカミ協会

‘シカ問題’ カテゴリーのアーカイブ

世界自然遺産登録20周年を迎えた白神山地に迫るシカ食害の脅威 

2014 年 1 月 4 日 土曜日

1

白神山地が世界遺産登録されてから20年になりますが、急増するシカによる食害という脅威が迫っています。周辺の状況を新聞地方版から抜粋・要約して紹介します。

 

世界遺産登録20周年を迎えるのを前に開かれた記念シンポジウムでは、白神山地世界自然遺産科学委員会委員長の中静透・東北大学教授は、各地の森で希少植物を食べ尽くしているシカが白神山地近くでも確認され始めていることに触れ、「世界遺産地域だけで解決できる問題ではない。シカの個体数をコントロールするのは難しい」と述べた。斜里町立知床博物館の山中正実館長は「少ないうちに対応しないと手遅れになる。危機感を持って対応していかないといけない」と強調した。

 

最後に、白神自然環境研究所の檜垣大助所長が「白神山地の自然を次世代に引き継ぐため、地域や立場の違いを超え、議論を深め協力することが不可欠」との提言をまとめた。(以上毎日新聞青森地方版2013/11/25から)

 

かつては岩手県南部が北限だったシカだが、県境を越え、青森での目撃情報も相次ぐ。白神でも9月、遺産地域から約9キロ地点の無人カメラが姿を捉えた。草食のシカは天敵に捕食されても個体数を維持できるよう繁殖力が強い。しかし、ニホンオオカミが明治期に絶滅し、シカの捕食者の不在が食害を深刻化させている。

 

11月の猟期を前に青森県は「シカを見たら積極的に撃って」と猟友会に文書で依頼したが、県内での狩猟対象は鳥類が8割以上。シカなど大型獣類と別の銃が使われ、担当者は「そもそも、県内には大型獣を狩る土壌がない」と話す。また、県内にシカは少ないのでシカ狙いのハンターは県外へ出かける。密度の低いシカをどう捕獲するか、有効策は見いだせない。

 

前大・白神自然環境研究所の中村剛之准教授は「誰も気づかない間に被害が進んでいる可能性がある」と指摘。「数年以内に食害は起きる」との見方を示す識者もいる。 (以上毎日新聞青森地方版2013/12/27から)

 

豪雪地帯の秋田県内には生息しないとされてきたニホンジカやイノシシが近年、目撃されるなど、自然界で変化が生じている。秋田県自然保護課によると、ニホンジカが09年6月、仙北市角館町で確認されたのを手始めに、今月までに計29件の情報が寄せられている。

 

秋田県猟友会副会長で狩猟歴約45年のベテラン藤原信三さん(70)はこの数年、頻繁に出没するツキノワグマや、北上するニホンジカ、イノシシの被害拡大を危険視している。東北森林管理局の佐藤宏一・自然遺産保全調整官は「(シカが)大量発生すると森林生態系に大きな被害をもたらすため、監視態勢の強化に努めていく」と世界自然遺産・白神山地保護の観点からも警戒を強めている。(以上読売新聞秋田地方版2013/12/7から)

 

シカもオオカミも絶滅していた雪深い北国に、植食のシカが広く復活するのに天敵のオオカミは絶滅したままといういびつな自然が生じます。すでに食害が著しい全国各地と同じ脅威にさらされます。捕獲に当たるハンターの減少と高齢化はすすんでいます。環境省は、ジビエで「厄介者をおいしく退治」と考えているのでしょうか。しかし、狩猟のエキスパート・オオカミの再登場なしに対策はありえません。自然の摂理を理解できずに世界最大級のブナの原生林を守り続けることができなければ、私たち日本人は世界に大変恥ずかしい思いをしなければなりません。

 

(井上 守)

コメントは受け付けていません。

シカの剥皮が森林を倒す!紀伊半島からの報告

2012 年 11 月 16 日 金曜日

                                             シカ剥皮害がもたらす風倒木


                   (2012 11 16 大槻 国彦)

ここ5年ほど森林調査の仕事をしていて、紀伊半島の三重、奈良、和歌山の3県の森林をぐるぐると歩き廻っている。ほとんどの場所で樹木の葉、枝先などをシカ(ニホンジカ、以下同じ)が食べた跡が少なからずみられるのだが、それ以外にも人工林、天然林を問わず多発しているシカ被害がある。シカが樹木の皮を剥いで形成層を食べてしまう、剥皮(はくひ)害である。剥被害というと、くるっと一回り幹の皮をむかれて立枯れした大台ヶ原のトウヒ林の木々などが有名だが、それと少し異なるパターンで、紀伊半島で深刻な被害が生じている森林が多くみられる。

ほとんどの立木が皮をむかれたスギ林。古い剥皮跡の周囲が後年また剥皮されたものもある。現地では材内部が強く腐朽していることが見てとれた。奥地の放置林。



*シカによる剥被害*
人工林ではヒノキのほうがスギよりも剥皮害を受けやすく、これは新芽食害の好みと一致する。シカは外側の粗い樹皮(外樹皮)を下側からむいて、その内側の内樹皮を食べる。
内樹皮を食べられた場所は木材(木部)の表面がむき出しになり、シカの歯でこすった痕が一面についていることもしばしばある。三重県林業研究所によるとシカの歯痕が残ってい
るのは樹木の成長停止期の食害で皮が硬いのを無理に剥がして食べるた

め痕がつくためで、深刻な餌不足の可能性があるという(※1)。移動しながら食べまわるシカの生態からか幹を一周はがされることはそれ程にはなく、剥皮の範囲が4分の1から半周くらいまでに収まっている立木が多い。高さの範囲は地際から地上数10cm、または1-2mくらいまでで、剥かれた樹皮が上からぶら下がっているケースもしばしば見かける。その他、根張り(地際の根が張り出している部分)は剥皮されやすい部位である。同じ木が何回も繰り返し被害にあうことは普通にみられ、一度剥皮されると形成層がほぼ完全に食べられて復活しないので、回数を重ねるごとに剥皮面積が広くなっていく。
調査した人工林のうち、たいていのヒノキ林では、数本程度の被害は普通に存在した。
被害のひどい場所では半数以上の立木が、もっと激害になると8割以上の立木が大きく剥
皮されていた。前述のようにスギ人工林ではヒノキ林より被害が少ないが、中には激害の
箇所もあって、シカの食性としてひとたびその食べ物(樹種)に手を出すと、それ以降も食
べつづけるようになるというモーメントがあるように感じられる。
天然林でも当然、剥皮害は多い。よく目につくのは外皮がごく薄いリョウブという落葉
広葉樹で、外皮をむきやすく食べやすいのだろうかとも想像する。そのほか、アカメガシ
ワ、ウツギ類なども剥皮害を受けやすい樹種だ。大雑把な観察だが、カシ類は樹齢が高く
なると樹皮の硬さ(厚さ?)が増すのか、若木のほうが剥皮されやすいようだ。針葉樹のモ
ミ、ツガも剥被害の対象となる。一方ミズナラ、ブナなどは葉の食害はあるが、厚いまた
は硬い樹皮のためか剥被害はほとんどみられない。このように樹種や樹齢によって被害の
受けやすさは異なる。
被害が進行し幹の全周をはがされると、たいていの木は枯死し立枯れする。それでも立
枯れしない木は地下で根が別の木の根と癒着して栄養をもらっているのだろう。

 

*剥皮被害木が風倒木へ*

将来的に不安な事のタネとして、人工林、天然林ともにシカによる剥皮害が原因で幹の内部に木材腐朽菌が入り、年数の経過とともに腐朽が広がり、ついには台風などの強風により腐朽部分 が折れ、風倒木となってしまう現象がポツポツとみられている。あくまで倒れた後の木を観察しているだけの話だが、数年以上前の剥皮害があり、幹の内部が腐 朽し、剥皮部分が折れて倒れている状況から他の推論は立てにくい。いわばシカ剥皮・幹腐朽・風倒の連結被害ということだが、ここでは便宜的にシカ剥皮風倒 害と呼ぼう(※3)。私はこの被害を将来にわたり森林を蝕む要因として、とても危惧している。

剥皮後に風害で倒れたスギ。剥皮部分が腐朽して折れている。ちなみに最初の剥皮の傷の周辺が後年また剥皮されている。



シカ剥皮風倒害はシカ剥被害のひどい地域でしばしばみられ、スギ、ヒノキ人工林で、また天然林のリョウブやケンポナシ、コジイなどの高木層の樹木に、多くは単木的に発生していた。中にはスギ人工林で4-5本くらいまとまって発生していたこともあった。シカ剥皮風倒害が発生するには必ずしも幹の全周が剥皮されることは条件でなく、幹の半分程度までの剥皮でも、幹の内部(木部)の腐朽が広い範囲で進んでいる状態になっていれば発生し、むしろ全周が剥皮されているほうが少なかった。全周が剥皮されると全ての葉を落として立枯れするので、逆に風害で倒れにくくなるのかもしれない。なんらかの原因で幹に進入した腐朽菌が内部を腐らせ風倒害を誘引することは、菌類学者の故今関六也氏が1954年の洞爺丸台風で北海道の石狩川源流域のエゾマツ・トドマツ150-250年生原生林の壊滅的な風倒木被害を調査した折、指摘している(※2)。その調査では、腐朽菌が幹に進入した原因として、地下水位が高く根ぐされがおきたことが疑われている。腐った根から進入した腐朽菌は何年もかけ幹内部を腐らせ、台風の強風により腐朽部から折れて倒れる。続いて風倒木を餌に穿孔虫が大発生し、さらにナラタケ病も誘発されて老齢・極相林を崩壊に導くことがあるのだと今関氏は述べている。

折れて露出した幹内部(木部)。ほぼ全体が強く腐朽し、スカスカで柔らかくなっていた



*シカ剥皮風倒害がもたらすもの*
エゾマツ・トドマツ原生林崩壊の事例から連想されるのは、スギ、ヒノキ人工林でのシカ剥皮風倒被害が類似の進路をたどらないかということである。いまはポツポツみられる程度で、私のアンテナではまだ森林・林業関係者の間でも特に話題になっていないようだ。しかし私が和歌山県の天然林で初めて被害を観察した3-4年前から、だんだん新しいシカ剥皮風倒被害の観察頻度が増えてきているように感じるし、地域的にも紀伊半島の三重、奈良、和歌山全てで確認している。剥皮やそれによる腐朽はスギ、ヒノキ人工林の中でも個々の木によりタイムラグがあるから、ある台風で一斉に立木がシカ剥皮風倒害で倒れることは考えにくいかもしれない。しかしシカ剥皮害と幹内部での腐朽菌の拡大はその場所で年々進行し次の倒木予備軍を増やしていくだろうし、一部の立木でも台風で倒れれば林内に風が吹き込んで、残された木も風害を受けやすくなる。エゾマツ・トドマツ原生林の例のように、風倒木が虫害や別の病害を誘発しやすくなることも容易に予想されるプロセスだ。シカ剥皮害により多くの立木が使い物にならなくなっている人工林が各地でみられるが、今後その剥皮を原因として立木が何年にもわたり次々と倒れていき、森林を崩壊させていく、という次の段階に進む例が出てこないか不安である。
天然林についても新芽、葉、樹皮の食害に続く現象としてシカ剥皮風倒害は発生してい
るし、現在の森林植生や今後の植生遷移、生態系全体への影響が多分に懸念されるが、今
の私には現象が複雑で手に余り、もっと考えを整理してからでないととても文章にならない。

*シカ被害の奥深さ*

ケンポナシの剥皮風倒木。剥被、腐朽とも幹内部の一部分だが、強風に耐えられず倒れた。周囲には剥皮されたリョウブ、枯れて桿(タケ類の茎のこと)だけになったスズタケがある。林道周辺



シカ害はまず新芽や葉などの食害が問題になることが多いが、剥皮害も多くみられること、それが次の被害につながっていることを訴えたい。人工林、天然林のいずれにおいても生態系の中のひとつの現象は次々に別な現象へと連鎖していく。まとまった風倒害が発生し明るくなった林内にシカの餌となる草や低木が生えると、草原が好きなシカの格好の生息地になり、栄養状態が良くなり繁殖しやすくなる。増えたシカがまた剥被害をおこすのだから、森林にとっては負の連鎖だ。

もう手遅れで回復に何十年、それ以上もかかる森林がそこかしこにある。これまで人工林では間伐などの手入れ不足が土壌流亡など森林の荒廃につながっている問題が指摘されてきた。それと同様に、いや現在ではそれ以上にシカ被害についても本当になすべき対策をとらないと、次々と手遅れな森林が増え、森林生態系というお金より大切な国民の財産が失われていってしまう。

*オオカミ復活について*
ニホンオオカミを絶滅させシカの天敵を人間だけにしてしまったことが大変悔やまれ
る。私自身は20年ほどの期間、断片的ながら森林を見てきた中で、シカの爆発的増加の深
刻さを知り、元はといえば唯一のシカの野生の捕食者であるオオカミを人が絶滅させてし
まったことが大きな要因ではないかとあるとき思い至り、愕然とした。オオカミは森林生
態系の頂点で、その生態系を形づくる大きな鍵となる種だということは頭ではすぐ理解で
きた。その種がもはや絶滅してしまったのだと思い絶望を覚えたが、今から10年ほど前
だろうか、オオカミを復活させるという選択枝を主張する日本オカミ協会に出会い、オオ
カミ復活の概念を知った。オオカミ復活について初めから結論を出せないまでも、少なく
ともきちんと考えみんなで議論をすることが必要ではないかと思った。今になり振り返る
と、それまで森林・林業関係で情報を得ていた関係分野の主流の学者の方々の論説は、オ
オカミ復活についてなぜか(行政的に?)タブーのように触れず適切な提案も反対もなく(あ
ったとしても声が小さくて)私の耳には届かず、発想をオオカミ復活から遠ざけていたよう
にと思う。

広葉樹(樹種不明)の剥皮風倒木。シカの口の届く範囲だけきれいに低木の枝葉、草が食べられ(ディアラインの形成)、林床植生は貧弱、土壌流亡が激しく樹木の根が現れてきている。常緑広葉樹が混交する尾根沿いのヒノキ林



各地で森林や里山でのシカの被害を見聞き・体験して、日本でのオオカミ復活の是非、可否を考えてきた末、結論として私は復活に賛成している。オオカミを復活させる、させないの選択肢、両者のメリットとデメリット、リスクの大小を考えてみたりした。詳しくは日本オオカミ協会の資料をご覧いただきたいが、単純にシカ被害がものすごいからオオカミに食わせろというだけの話では決してないし、そうはならない。

 

オオカミ絶滅の影響は、長い潜伏期間を経てシカの食害の増加に伴う植生の変化が目に
見えるようになって問題になったが、シカ剥皮風倒害も時限爆弾のように発生しはじめた
し、最近の研究ではシカ食害による植生の変化が鳥類へ影響を及ぼすことも明らかにな
ってきた(※4)。まだまだ将来解明される影響もあるだろうし、それでも全ての影響を予測
・解明するのはできないと考えるのが正常な理性だろう。一方でオオカミを復活させた日
本の森林がどのような経過をたどるのか、生態系修復へ向かうとは思うが、こちらも全て
の影響の予測・解明は困難だ。だからこそ皆さんもオオカミ復活についてぜひ賛成、反対
の両側面から深く考えてほしい。
私の場合、書籍も読んだが、もちろんすぐには考えは固まらなかった。そんな中、考え
る材料としてどうしても必要だったと思うことは現地を歩くことで、森林調査や山仕事な
どを通じてシカ被害の無残な状況を目の当たりにし、最終的には米国のイエローストーン
国立公園で、再導入されたオオカミの生態を自分の目で垣間見たことがオオカミ復活賛成
の決め手になった。オオカミは、その自然に当然いるべくしている野生生物だったのだ。
全てのお世話になった方々に謝意を示したいが、代表して最初にオオカミ復活について
きちんと考えるきっかけをくださった当協会理事、森林・林業のエキスパートの上野一夫
さんに感謝の意をささげます。

2012年11月22日
今回あまり触れなかった天然林のことについて、重要な点を考察として追記したい。森林中のシカの剥皮は、シカの数が適度であるなら、森林の更新、生物多様性に貢献するという報告がある。森林の年齢(林齢)が高くなると、高木層の枝葉の密度が高くなり、低木や草が減少してくる。ここでシカが剥被することで、高木の幹が腐って倒れ、地上に光が当たる。そうすると新たな植生が生育する空間ができ、森林の更新や生物多様性の向上に役立つのである。シカによる剥皮-幹腐朽-風倒の連結は、程度が甚大になると問題だが、その現象そのものは生態系にとって、もともと必要なプロセスの一つというわけだ。
シカは多すぎてもいけない、かといって少なすぎてもいけない。では適度なシカの数と
はどのくらいだろうか。それは単なる数字ではなく、オオカミとシカ、その他の生物がバ
ランスをとって数を保っている状態、年によって数はシーソーのように上下するだろうが、
長い年月では均衡を保っている状態をもって適度だと判断されるのだろう。オオカミを欠
いた生態系で単純に人間がシカの数を制御するのではなくて、オオカミがいる生態系で、
その生態系自身が各生物の個体数、その他さまざまなバランスをとっていくことが、最終
的に森林を健全な状態に保つことにつながるのだと思う。

※1 http://www.mpstpc.pref.mie.lg.jp/RIN/paper/shika.pdf
※2 今関六也(1988) 森の生命学、冬樹社
※3 意の通じる相手との会話などでは口語的に樹木の「シカ折れ」と呼んでいる
※4 奥田ほか(2012) 栃木県日光地域におけるニホンジカの高密度化による植生改変が鳥
類群集に与える影響、日林誌94:236-242

 

コメントは受け付けていません。

オオカミがいないと:ミミズの仕事百年分を一年でフイにするシカ!

2012 年 4 月 15 日 日曜日

シカの増えすぎは今や全国的です。北の世界自然遺産「知床」、南の「屋久島」をはじめとして自然生態系の破壊の惨状には胸が痛みます。森林は枯れ果て、潅木も草も食べつくされ、地表を覆っている落ち葉や落ち枝すら食べられて、地表はむき出しの裸地になってしまいます。屋久島ではシカはサルの群れについて歩いていると報告されています。お腹を空かしたシカは、サルが落とす食べかけの木の葉が目当てなのです。

被覆を失くして、無防備になった地面は、雨に打たれ風に吹かれて、土壌は次々と剥ぎ取られてしまいます。斜面地では何もしなくても土壌は谷に向かって落ちてゆきます。こうして裸地からの土壌の侵食量は1年で厚さ10mm以上にもなります。小石を頭に載せた小さな、無数の土柱が山の斜面のあちこちにできていたら、土壌の侵食が進んでいることが良く分かるでしょう。土柱の頭の上の小石が雨滴の侵食を防ぐ傘の役割をしているのです。土中に隠れているはずの木の根が空中に浮いていたら、やはり土壌が侵食された結果である可能性が大きいのです。こうして真っ先に失われる土壌は、養分をたくさん含んだ表土です。表土が失われたら、植生も消滅し、不毛の土地になってしまいます。表土の下部には栄養分が少ない下層土が基岩の上に載っています。侵食が進むと下層土も失われ、基岩が剥き出しになり、岩山になってしまうのです。

土壌は、基岩が風化されて下層土が形成され、次いで表土が産まれます。この表土形成に大きな役割を担っているのがミミズなのです。進化論で有名なダーウインは、ミミズのこうした役割を重視し、ミミズは1haの面積に16万匹も生息すると書いています。ミミズは地表の落ち葉や動物の死骸、それに岩屑を食べて、消化器内で消化しながら無機物と有機物を混ぜ合わせて糞にして排泄します。このミミズの糞が栄養分豊富な表土を形成するといわれています。このようなミミズの土壌形成量は年に0.1mm前後といわれていますから、厚さ10mmの土壌を作るのに100年もかかることになります。増えすぎシカは、このミミズの100年の仕事をたった1年でフイにしてしまうのです。動植物の死骸という食物を奪われたミミズにとっても、増えすぎたシカは迷惑な存在なのです。肥沃な土壌を生産するミミズは、山の生物多様性を支える縁の下の力持ちなのです。ミミズの減少は、生物多様性の低下につながることは明らかです。

表土の厚さは、場所によってさまざまですが、普通は深さ30cm程度しかありません。下層土まで含めてもせいぜい50~60cmくらいです。増えすぎたシカによる侵食を放置しておけば、表土が完全に失われるのに約30年、下層土まで失われるのに50年という計算になり、半世紀もたてば、鬱蒼とした森林に覆われていた山は岩山になってしまうのです。

現在、困ったことに、私たち日本人にシカの増えすぎを止める力はありません。シカの増えすぎを抑制し、ミミズを守り、土壌の喪失を防ぐのは、やはり自然生態系の働きに頼るしか術がないのです。食物連鎖による自然調節を機能させるためには頂点捕食者オオカミが欠かせません。「山河なくして国はなし!」オオカミの再導入を急がないと!

参考書:

デイビッド・モントゴメリー「土の文明史」片岡夏実訳、築地書館(2010)

チャールズ・ダーウイン「ミミズと土」渡辺弘之訳、平凡社ライブラリー(1994)

*ミミズの本多数

(2012年4月12日記:狼花亭)

コメントは受け付けていません。


鹿の食害を考える ドイツに見るオオカミとの共生

当協会が紹介されています
(動物や自然を守ろう にて)

トカゲ太郎のワンダー・ワールド

Get Adobe Flash player