アラスカ « 一般社団法人日本オオカミ協会

‘アラスカ’ タグのついている投稿

アラスカにおけるオオカミのハンティング問題

2005 年 3 月 4 日 金曜日

インターネット記事の要約と若干の考察

アラスカにおいて、航空機によるオオカミ狩が解禁された。なぜこのようなことが行われるに至ったのか。当協会の有志は、事態を重く見て、とりあえず事実関 係をはっきりさせるために、アラスカ州魚類狩猟局のホームページなどの主要情報を翻訳した。その量はかなりのものになるので、以下、項目を分けて要約、考 察も付け加える。

<1.問題>
アラスカ州当局によると、アラスカ内陸部の特定地域について、「アラスカ州魚類狩猟局は、今冬、一般の人たちに、オオカミの個体数削減のために航空機を使う許可証を発行する」(2003年11月5日付アラスカ魚類狩猟局野生動物保護部ニュースリリース)。

目的はムースの個体群の増加であり、ムースを食料としている地域住民は、「年間130頭~150頭のムースを必要とするのに、1990年代以降は、60~90頭しか狩ることができないでいる」(同)として、従来から当局に陳情していた。

「地域の地理に関する知識、低空飛行の経験など」の基準を満たす者が申請すれば、誰にでもすぐ、30日間の許可証が交付される。(2003年11月18 日付アラスカ州魚類狩猟局告知)。もっともこの基準のために、許可証保持者のほとんどは、「計画地域周辺に居住する住民に制限」(2003年11月5日付 アラスカ魚類狩猟局野生動物保護部ニュースリリース)されることとなるだろう。

保護団体によると、「2003年6月にムルコウスキーアラスカ州知事は,飛行機によるオオカミの即日ハンティングを復活させたばかりでなく、一般の人たちも空からオオカミを撃ち殺せることを法律で認めてしまった。」(Alaska Wildlife Alliance)

「この過激な殺戮プログラムによって、アラスカ全州に生息するすべてのオオカミが今、危機にさらされている。この方法を認めた過去の法律では、カリブー やムースなどの被捕食者の個体数が空からのオオカミハンティングが実行される以前の低い水準に減少していることを条件に定めていたが、現在の政府が保証す る空からのハンティングは、被捕食者の数が安定したり増加している場合でも、今後の減少を抑えるための先制手段として実行することができ る。」(Alaska Wildlife Alliance)

「さらに悪いことに、空からのハンティングに関する調査結果を集めるというアラスカ州魚類狩猟局長官の権限を取り上げる条項が最終段階で上院法案155 に追加されるに至って、チェックとバランスのシステムは完全に崩壊した。」(Alaska Wildlife Alliance)

つまり、歯止めのない形で、オオカミが駆り立てられる恐れがあるとしている。
上記をまとめると、

① ムースの個体群の回復を目的として、従来認められていなかった、航空機を使ったオオカミのハンティングを、アラスカ当局は復活させた。
②ハンティングが行われた結果、オオカミや被捕食者の個体数などが、どう変動するかといった調査が、厳密に行わるわけではなさそうである。
③仮にそうだとすると、アラスカの一部の地域について、オオカミが絶滅する、あるいは、それに近い事態が起こる可能性があり懸念される。
④それとは別に、航空機から野生動物を撃つという行為そのものの正当性にも疑問がある。


<2.アラスカにおけるオオカミの生息状況>
「オオカミは食物連鎖には不可欠な存在である」(アラスカ州魚類狩猟局野生動物保護部「アラスカのオオカミ保護及び管理政策」)。

「アラスカでの個体数は、約6000頭~7000頭である。」(アラスカ州魚類狩猟局野生動物保護部「アラスカのオオカミ保護及び管理政策」)そのオオカミは、ムースやカリブーなどの被食動物を捕食している。

ところが、「アラスカ州のオオカミは絶滅危惧種ではない。」(アラスカ州魚類狩猟局野生動物保護部「アラスカのオオカミ保護及び管理政策」)。つまり 「絶滅危惧保護条例」によって保護されていない(イザベル書簡)。そして、最近5年間で、7千5百頭近くのオオカミが狩りや罠で殺されている。(イザベル 書簡)

その結果、「被食動物の減少や過剰な捕獲などにより、オオカミの個体群が減少する可能性があり、規制されていない狩猟や罠猟、分割による生息地の喪失、 開発や農業などが、オオカミの生存を危うくしている。」(アラスカ州魚類狩猟局野生動物保護部「アラスカのオオカミ保護及び管理政策」)

つまり、「アラスカがオオカミであふれかえっているなど過去の神話である」((Alaska Wildlife Alliance)

当局はもちろん、「オオカミとその被食動物の捕獲により、長期的な個体群の生存を脅かすようなことがあってはならない」(アラスカ州魚類狩猟局野生動物保護部「アラスカのオオカミ保護及び管理政策」)

「オオカミがこれまで生息した、アラスカの地域すべてにわたり、オオカミの長期的保護を確実に行う」(アラスカ州魚類狩猟局野生動物保護部「アラスカの オオカミ保護及び管理政策」)としているが、それにもかかわらず、今回、一部の地域とはいえ、航空機による狩猟が認められるに至ったのである。


<3.現在、オオカミを捕獲することの必要性>
(1)アラスカ当局のオオカミコントロールについての考え方
「アラスカ州魚類狩猟局は、オオカミとその捕食動物を、動物の一種としてではなく、生態系すべての中の一部として考える。」(アラスカ州魚類狩猟局野生動物保護部「アラスカのオオカミ保護及び管理政策」)。

一方で、狩猟、特に食糧確保のための狩猟は、住民の権利であり、「地域の住民にとっては、ムースやカリブーがもっと必要」(アラスカ州魚類狩猟局野生動物保護部「アラスカのオオカミ管理」)な場合、当局はそれを保障する必要があるようだ。

「連邦法では、生活に必要な狩猟や罠猟を多くの国有地で保障している。」(アラスカ州魚類狩猟局野生動物保護部「アラスカのオオカミ保護及び管理政策」)。

ところが、オオカミやクマも当然、被食動物を捕食する。「ムースとカリブーの毎年の死亡原因の80%は、捕食動物によるもので、人間によるものは10%以下である。」(アラスカ州魚類狩猟局野生動物保護部「アラスカのオオカミ管理」)

その結果、「捕食者は、そこに住む被食動物の個体数を、本来その地域が支えられる数よりもはるかに少なくしている。」(アラスカ州魚類狩猟局野生動物保護部「アラスカのオオカミ管理」)という事態が起こることがあるとする。

そして、「狩猟を規制しても、被食動物の個体数を十分増やすことができないと判断すれば、捕食者の管理が必要となるだろう」(アラスカ州魚類狩猟局野生動物保護部「アラスカのオオカミ管理」)

そういった状況になれば、場所によっては「特定の野生動物個体群の数の維持と人間の使用目的を実現させるために、捕食者と被食動物の管理に対す る総合システムアプローチの一部として、オオカミの個体群が管理される可能性がある」(アラスカ州魚類狩猟局野生動物保護部「アラスカのオオカミ保護及び 管理政策」)

なにしろ、オオカミは繁殖力旺盛で、「クマの個体数は狩猟で減らすことができるが、オオカミは狩猟や罠猟で殺しても、被食動物の個体数を十分増やすほど、その個体数を減らすのは困難である。」(アラスカ州魚類狩猟局野生動物保護部「アラスカのオオカミ管理」)からだ。

つまり、特段の努力を払って、「アラスカ州魚類狩猟局が、オオカミの個体群を調整または減少させて、特定地域計画で設定された個体群管理目標数まで被食動物の数を増加させることがある。」(アラスカ州魚類狩猟局野生動物保護部「アラスカのオオカミ保護及び管理政策」)

もっとも、「このような虐殺を解禁する理由はただひとつ、ハンターたちの獲物であるムースやカリブーを増やすために、政府高官がオオカミを殺したかった からである。(イザベル書簡)。つまり、ムースやカリブーを狩猟するハンターの立場だけからの政策である可能性も捨てきれない。


(2)オオカミコントロールに至る手続き
「オオカミコントロールの検討と実施についてはIUCN(国際自然保護連合)の基準に従う」(アラスカ州魚類狩猟局野生動物保護部「アラスカのオオカミ保護及び管理政策」)

そして、オオカミコントロールを行うときは、「①地域の説明、②提案された行動の説明、 ③提案された行動の正当化、④関連情報、⑤必要な時間の予測、⑥プログラムの最新情報や再評価を行うためのスケジュール」を含む提案を作成する(アラスカ 州魚類狩猟局野生動物保護部「アラスカのオオカミ保護及び管理政策」)必要があるとしている。今回もそれが行われたのだろうか。


(3)対象地域のムースはほんとうに減っているのか
「アラスカ内西部のクスコンキン川上流域では1990年代初めからムースが減ったと言われている」(アラスカ州魚類狩猟局野生動物保護部「マクグレースにおけるムースの復活」)。

前記のように、地域住民は食料としてのムースの確保が十分にできないし、「サケの遡上も減っているので余計苦しい状況にある」(アラスカ州魚類 狩猟局野生動物保護部「マクグレースにおけるムースの復活」)という。1995年にはこの地域の「ムースは獲り尽くされたという報告」(同)が出された。 2001年までは、「住民情報、狩猟データ、飛行機による調査」(同)によると、マクグレースでの「ムース頭数は、アラスカ内陸部で記録された最低」の水 準に落ち込んだとされている。

その結果として、2003年「4月31日に罠猟期が終わってから、この地区でのオオカミとグリズリーによる捕食をどうやって減らすかの検討を再開する」こととなっていた。

「地域によっては、オオカミの個体群は、特定の人間に使用目的またはその他の目的を実現させるため特別な水準に維持される可能性がある」(アラスカ州魚類狩猟局野生動物保護部「アラスカのオオカミ保護及び管理政策」)からである。

ところが2001年10月、飛行機による調査を強化したところ、「ムースの数は以前に思われていたよりも多いが、水準としては比較的低いことが分かっ た。この調査によって、オオカミ管理を正当化するにはまだ調査データ分析が必要であるという結論になった。」(アラスカ州魚類狩猟局野生動物保護部「マク グレースにおけるムースの復活」)

最近に至って、対象地域におけるムースの数が減少したというのが、仮に事実としても、その原因はなにか。オオカミの食欲が増したというわけでは ないだろう。減少が短期的なものならば、オオカミの数の減少によって、近いうちにそれは回復するはずである。気候変動などの外部要因によってムースの生息 条件が悪化したのなら、従来よりも低い均衡点に達して安定するはずである。

仮に人間の人口増のために、ムースの肉に対する人間の需要が増加したのが原因だとしたら、オオカミの排除は短期的な解決策にはなっても、長期的 には解決策にはならない。人間が人口の増加分を他に移転させるか、代替の食料に転換するかしない限り、その地域におけるムースは、遅かれ早かれ絶滅する。 もちろん人は、食べていかなくてはならないのだが。


(4)対象地域のオオカミは増えているのか
そもそもこの地域のムースの個体数が減っているとしても、それはオオカミなどの捕食者 のためなのか。「オオカミは生態系を構成する自然の一部であり、病気や老齢、衰弱の見られる個体を排除することによって,健康な被食者集団の維持に寄与し ている。長年にわたる科学的研究から、捕食者が被食者の減少の原因になることはまれであることが分かっている。」(Alaska Wildlife Alliance)のではなかったか。

もともと、オオカミなどの捕食動物の数と、ムースなどの被食動物の数とは、お互いに依存関係にある。ムースが増えれば、オオカミが増える。オオ カミが増えるとムースが減り、結局はオオカミが減る。短期的にはそれぞれの数がアンバランスになることはあっても、長期的にはバランスしていく。オオカミ やクマが、多数のムースの仔を捕食するといっても、それもこのバランスシステムに組み込まれているはずである。

「オオカミたち自身の工夫によるものか、オオカミの個体数は比較的安定している」(Alaska Wildlife Alliance)

なんらかの原因で、最近この地域でオオカミの個体数が異常増殖したのか、あるいは、急にムースの仔を捕食することが多くなったのかといった疑問が残る。


<4.オオカミ捕獲の手段として飛行機やヘリコプターを使用することの正当性 >
「オオカミは狩猟や罠猟で殺しても、被食動物の数を十分に増やすほど、その数を減らすことは難しい」(アラスカ州魚類狩猟局野生動物保護部「アラスカのオオカミ管理」)

これまでオオカミの個体数管理のためにいろいろやってきたが効果がなく、「狩猟局は、航空機の使用はオオカミの個体数を必要なだけ削減するための、唯一の有効な方法であると認めた。」(2003年 11月5日付アラスカ魚類狩猟局野生動物保護部ニュースリリース)。

この措置は、「クスコキン川に沿った小さな地域に集中され、短期間で終了される見込みである」(同)、「オオカミ管理が計画されているのは荒らすか全土の2%以下である。」(アラスカ州魚類狩猟局野生動物保護部「アラスカのオオカミ管理」)

「オオカミコントロールは、利用できる方法の中でもっとも人道的で、効果的なものとして選ばれたものを使用して行われる」(アラスカ州魚類狩猟局野生動物保護部「アラスカのオオカミ保護及び管理政策」)

「空からの射撃や地上に降りて撃つ方法は、必要なコントロールの水準が他の選択肢では実現できず、認可された目的に到達しないと予想された場合にのみ使用される」(アラスカ州魚類狩猟局野生動物保護部「アラスカのオオカミ保護及び管理政策」)

「アラスカ政府は航空機を使って空からオオカミを撃ったり、彼らが疲労困憊して動けなくなるまで追いかけてから着陸し、陸上で彼らを撃つとい う、かつて行われた野蛮で非道徳的な行為」。(Defenders of Wildlife「アラスカオオカミの危機について訴えます」オオカミの仲間たち))であることに間違いはない。

「ハンターたちは飛行機に乗ってオオカミを探し、パックがつかれきるまで追い回す。そしてオオカミが疲れたところで飛行機からオオカミを撃つ、あるいは着陸してオオカミが雪の中で動きが鈍くなっているところで撃つ。残酷な狩猟方法。」(イザベル書簡)

こういった狩猟方法について、アラスカの住民は「地方を含む州の主要地域はすべてこれに反対しており、ハンターの大多数までが反対している。」(Alaska Wildlife Alliance)という。

ハンティングにフェアプレーを求めることは幻想なのだろうか。航空機による狩猟だけではない。「スノーモービルによる追跡はかつては違法で、スポーツマ ンシップにもとると考えられたが、今やアラスカ州の広い地域で容認されている。」(Alaska Wildlife Alliance)。銃の性能も向上したし、「スノーモービルの台数も、500%以上と飛躍的に増加」(Alaska Wildlife Alliance)していると言う。

地域住民の食糧確保のために、ほんとうに必要ならまた別かもしれないが、「ハンターたちの楽しみのためにムースやカリブーの数を増やすことが、このような野蛮な殺戮行為を正当化できるとは到底思えない。」(イザベル書簡)


++
鷹取澄

コメントは受け付けていません。


鹿の食害を考える ドイツに見るオオカミとの共生

当協会が紹介されています
(動物や自然を守ろう にて)

トカゲ太郎のワンダー・ワールド

Get Adobe Flash player