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書評:『エゾオオカミ物語』

2014 年 8 月 26 日 火曜日

エゾオオカミ物語

 

あべ弘士 作、絵
講談社創業100周年記念出版(絵本)
2008年11月出版(25㎝×27㎝横サイズ32頁)
講談社 1500円(税別)

 

 

 

絵本は子どもたちにとって最初に出会う芸術作品といわれています。また知識と知恵の宝庫とも。いつの間にか好奇心をかり立てられ、未知の世界に遊ばせてくれるものです。そこで手に取った『エゾオオカミ物語』、まずは表紙絵のエゾオオカミのインパクトの強さと青く光る月明かりに照らされた存在感に圧到されます。北海道の冬の厳しい自然が白と青で表現されており、月明かりに照らされた雪の感覚はまさに青く光る美しさにほかならないでしょう。さすが旭山動物園での25年間の飼育係りとして培った観察眼の鋭さが伝わってきます。

物語はたった100年ほど前のこと……絶滅してしまったオオカミと人間の歴史をシマフクロウおじさんがモモンガたちに語るのです。「オオカミは、とてもいいやつだったんじゃよ。だがのお……。」この一節に子どもたちは反応します。「うそだよお……、わるいやつだよ」と。

読みすすんで
「オオカミはシカを殺して食べる。だが、シカはオオカミに食べられることによってじぶんたちの数のバランスをたもっている。ということは、シカたちに食べられる草や葉っぱの量もちょうどよく、森や野原はいつも、緑ゆたかなままだ。オオカミがシカを食べることも、シカがオオカミに食べられることも、悪いことではないのだ。そのことは、オオカミもシカもよくわかってのことだ。」と。このくだりは生命と生命のぶつかり合いによって自然の生態系の均衡が保たれることを教えてくれるものです。これらはやさしい言葉でより深いことを伝えられる絵本の魅力ともいえます。

豪雪によるシカの激減から、開拓者の馬を襲ったためオオカミはつぎつぎと殺され、ついに絶滅に追い込まれたのです。そのため今ではシカが増えすぎてしまった。

結び  「オオカミの遠ぼえは、もうきこえない。」
「でものお、こんどはエゾシカが悪者になっておるが、そうしたのは、ほんとうは“だれ”なんじゃろう?」
この経緯……人間のおろかさを鋭く描いた作品に心うたれるものです。

ここまで読むと、子どもたちの目は一段と輝きを増してきます。この絵本のすごさは、はじめから終わりまですべてが見開きで表現されており画面の大きさ広さが、大胆なタッチで更に大きく強く心に迫ってきます。また夜行性の動物を主人公に据えた作者の意図を想うとき暗闇のなかに現代に生きる者がわすれた大切なものが隠されている様に思えてなりません。シマフクロウおじさんが「やがては自分の棲みかさえなくなるのでは……」と心配する様子もうかがえます。

表紙の見返し裏見返しに描かれたオオカミの群れからは「森はわれらにまかしてくれよ」といわんばかりに私には聞こえます。

子どもたちに真実を伝える責任が大人にはあるとしみじみ考えさせられました。この『エゾオオカミ物語』こそ環境問題の絶好の教科書と思います。一人でも多くの子どもたち、それを取りまく大人の方がたにぜひとも読んでいただきたいと考えます。

評者:ふじわら さちこ


あべ弘士 1948年、北海道生まれ。1972年から25年間、旭山動物園に飼育係として勤務。1995年、『あらしのよるに』(講談社)で講談社出版文化賞絵本賞、産経児童出版文化省JR賞を受賞。その他受賞歴多数。ほかに絵本出版多数。

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