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【必読!】知床博物館研究報告特別号

2016 年 6 月 29 日 水曜日

【必読!】知床博物館研究報告特別号 第1集(2016年2月29日発行)

シンポジウム「知床国立公園における野生動物の保全と管理2015」報告書

以前、JWAホームページの2015年11月6日付記事「世界が見ている『日本でのオオカミ復活』そして『知床の未来』」で、札幌IWMCでの知床シンポジウムの概要をご報告しましたが、その正式な報告書が知床博物館ホームページ上で公開されました。

http://shiretoko-museum.mydns.jp/shuppan/kempo/kempos1
(ページメニューの「出版物」→「紀要と年報」→「研究報告特別号」とクリックして、読みたい文書のPDFを選択します。)同一の内容が英文・和文両方で収録されています。海外の方も含め、ぜひ多くの方にお読み頂きたいと思います。


■オオカミ復活は必然の未来

文書は全9題。どれも知床の現状と課題を把握するのに有用なものですが、オオカミ復活に関しては8題目の「知床–イエローストーン国立公園シンポジウムに対するコメント」 デール R.マッカロー (P105–111)をお読み下さい。
マッカロー博士は文中で「オオカミによる人間の安全に対する脅威は、ほとんどないか、皆無である」と断言しており、シカ害対策のコストやオオカミによる家畜被害などのデメリットと比較して、オオカミ復活のメリットを考えるべきだと述べています。これは私たちJWAが2015年に開催したオオカミシンポでも、招聘講演者のミッチ博士やバーテン氏が口をそろえて言っていたことです。

さらに心強いのは、マッカロー博士が「日本の一般市民は、将来のいつかの時点で、生態系の中でのオオカミの役割について、もっとバランスのとれた理解に達するだろう」と書いていることです。その時に人々は、オオカミの再導入プログラムを受け入れる方向に進むだろうと述べていて、早いか遅いかの違いはあってもオオカミが復活する未来は必然であるという前提で話をしていることが分かります。その参照のためにはイエローストーンよりもミネソタ州が良い見本であるといった現実的な助言も書かれています。


■目指すべきは自然調節の回復

オオカミ復活が必然である理由は4題目の「イエローストーン国立公園と知床国立公園の保全モデルの比較」キース オーネ(P35–54)を読むとさらに分かりやすくなるかもしれません。概念的な説明が多いですが、ポイントが整理されているのでぜひこちらもお読み下さい。オーネ氏の専門はバイソンなどの草食獣で、その保護管理から「捕食」という自然の機能を考えています。従ってオオカミ復活を前面に押し出す論調ではありませんが、マネジメントの主眼は捕食動物による自然調節メカニズムを作り出し自然の作用を回復させることにおくべきだという主張、国立公園(とりわけ知床のような自然遺産地域)では、人間の手による「捕食機能」は補助的・代替的なものであるべきだという主張から必然的に導かれる推奨案は、オオカミの復活以外ありません。


■日本の停滞を招いているのは誰か

オーネ氏は、被害軽減のために安易に柵に頼ることの問題点についても述べており、私は福井県と石川県が県境に作ったシカ柵でもめた話をつい思い出してしまいました。

http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG19H0W_Z10C15A8000000/

柵の物理的な効用や弊害、コスト面にとどまらず、柵を作ることが市民の意識に与える影響まで考慮しての幅広い議論ができるというところに、米国の野生動物管理の先進性を感じます。
一方、日本では、本来このような野生動物管理の議論をリードするべき立場の研究者や環境省が、「オオカミの復活は検討する段階にない。時期尚早だ」とこぞって議論を避け、(札幌IWMCの主催者で、知床科学委員会の元座長でもある梶光一氏の態度がその典型でしょう。前出の記事参照)あるいは公式のパンフレットに「オオカミは慎重に考えることが必要」と明記するなどして、一般市民は受け入れないだろうという憶測をもとに「オオカミ復活はナシ」前提での研究や教育を続けているのが現状です。しかし、このまま議論もせず、ただ座して待っていれば、いつしか一般市民は自然に考えを変えるとでも思っているのでしょうか?このような専門家の態度こそ、一般市民のオオカミ理解の進展を阻害している要因と言えるのではないでしょうか。

報告書でオーネ氏はそれを「明らかなイニシアチブが存在していない」というマイルドな表現にとどめ、「関係者間の調整ばかりでなく、もっと明確なトップダウンの決定を」と改善を提言しています。研究者や主管官庁が、議論の開始を「時期尚早」と先送りすればするほど、未来は遠のくばかりです。科学的な知見にもとづく、未来を見据えた対応や教育に一刻も早く着手することが必要です。シカ捕獲の体制を強化して植生にやや回復が見られたとはいえ、将来にわたってこの体制は不適切であると本シンポジウムにおいて日米で認識の共有がなされたのですから、知床でも早速、オオカミ再導入の議論を始めて欲しいと思います。

南部 成美

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