オオカミ再導入講演

オオカミ再導入埼玉講演

主催:入間市立図書館金子分館 2019.6.22


オオカミ再導入埼玉講演


昨年の秋、埼玉県比企郡小川町の町立図書館でオオカミフォーラムを実施した。その時に会場に来られた入間市立図書館金子分館の深野和彦分館長より、直後に講演の依頼を受けた。

 

この地区には大場烈夫さんという古いオオカミ協会会員がおいでになる。この支部会員のお勧めがあり、講演会の開催に大きな力となっていただいた。

 

私も経験があるが、この分館は指定管理者制度により運営されており、深野館長は有効な事業を行い高い評価をうることが大切である。小川町オオカミフォーラムで行ったように、埼玉県生態系保護協会の堂本事務局長にも講演に参加して頂き、オオカミ協会埼玉県支部長の私と二人で講師を務めて欲しい、ということになった。

 

オオカミ再導入は「生物多様性保護」の観点から、国際的にも実行に移して行かねばならないテーマとなっている。野生動物頂点捕食者不在の日本では、シカ、サル、イノシシの増加などは、人間の手では抑えきれないことが明白になりつつある。深野図書館長の認識とオオカミ協会埼玉県支部の立場とは馴染みが良かった。

 

又深野さん自身がフットワークよく各種オオカミ関係の展示会などに足を運び、理解を深めて頂いたことも有益であった。私の会社にも新年度の4月になって早々にお訪ね頂いた。オオカミ協会の立場をお話したところ、頂点捕食者オオカミを欠く日本の山林が、どのような現状になっているか等多くの課題もすぐ理解され、十分に事前の擦り合わせが出来た。

 

はじめは「20人くらいしか集められないと思うが、それでもよいか」とのことであった。私の立場は「一人でも多くの人に日本の山林の現状を知っていただくための広報活動が責務なので、何人でも良いですよ」とお答えした。但し当支部からも参加者が増えるような働きはして行きます、とのお約束もした。幸い読売新聞川越支局の丹下記者と知り合いなので、講演会の予告記事を書いて貰えるか打診したところ、すぐ取材して頂き、かなり背景も含め丁寧な記事を掲載して貰った。この時点で定員40名のところ参加申し込み者は32名となったとのメールを受けた。


オオカミ金子分館展示物


金子分館は武蔵七党の金子十郎家定が統治していた地域にある。川越の仙波氏と同じ村山党に属する武将で、川越とは縁も深い。あたりは狭山茶の店が軒を連ね、分館から茶畑が一望できる茶所である。

 

当日支部役員と1時間前に金子分館に行ったところ、深野さんの見通しは、雨でもあり3名くらい減るとおもいます、とのことであった。

 

館内の掲示板に、裏山の加治丘陵から、茶畑の中に現れたシカの写真が張り出されていた。初めてのことで近隣住民としては、実害があったわけではないが心配であろう。展示物は井上千葉支部長から24枚のオオカミ関係の展示用写真を頂き、すべて上手に展示していただいていた。その上、丸山会長の出版物をはじめ、赤ずきんちゃんの絵本も含め、相当数のオオカミ関係出版物が集められ展示されている。さすがに図書館だな、と感心した。私達にはとてもできないことであった。

 

講演は2時の開始である。深野分館長が開会の挨拶をされたが、定員を超えて44名の参加者となり、資料が行き渡らないので、後日送付する旨お詫びをするところからスタートした。

 

「日本山林の現況 ―川の清流を取り戻すには― 「害獣から森を守る!日本オオカミの復活」と題してパワーポイントの解説をして行った。

環境省HPによる三角図を最初に示して、土中の微生物が生活する黒土から、植物、各種動物、頂点捕食者のキツネまで、環境省がいう、「自然界を形づくる生態系の仕組み」についてお話した。

 

続いて付近を流れる入間川源流の土壌崩壊の様子、埼玉県秩父地方の山林林床の荒廃、荒川上流水源林の表土流失による二瀬ダムの堆砂進行などの解説を50分間行った。

 

環境省作成の「増える日本ジカ 迫り来る脅威 二ホンジカの増加と食害 あなたは知っていますか」などのポスター画像には、食い入るように見つめる人が多かった。最後にオオカミ再導入へ、杉並高校の高校生による提案を説明したところで、パワーポイントによる解説を終えた。

 

補足として、ファンの多い日本オオカミについては、世界のオオカミとDNAは同一であること、ただ小型であることをお話しして講演を終了した。

 

その後10分の休憩をとり、埼玉県生態系保護協会堂本事務局長が50分講演した。堂本さんは、生物多様性保護、生態系保護の視点から、オオカミ導入の議論を避けてはならない、大いに議論を盛り上げるべきである、との立場でお話をされた。その点会場の参加者も納得がいった様子であった。野生動物、鳥、虫、植物などの食物連鎖等話題は広範囲にわたり、皆さんも熱心に聴講した。

 

講演終了後の質疑応答は数人の方から頂いた。何時も必ずでる「オオカミと山で出会ったときは、どうするのか」との質問はなかった。会場に来られた人は、増大するシカの恐怖、を知り抜いているようで、昨年とはかなり違った様相になっていることを強く感じた。

 

翌日金子分館長から、図書館が行ったこの事業へのアンケート結果が送信されてきた。

それによると、この催しを知ったのは、金子図書館カウンターによる11人、分館だより6人、広報入間4人、知人から4人、ポスターチラシ2人、読売新聞3人、オオカミ協会HP3人、オレンジカフェその他6人となっている。44名中39人が回答している。回答率89%に上る。

 

講演会の内容が良かったとする人は81%、反対の1人は日本オオカミの解説ではなかった、というものであった。日本オオカミへの郷愁の思いが読み取れる。

 

金子地区という平安時代からの古い歴史を持ち、加治丘陵を身近に生活する方々の、社会的な意識の高さと、狭山茶を愛する住民の連帯感のようなものを強く感じた。多くの方々に最後まで熱心に参加して頂き、感謝いたします。

 

2019.6.26
日本オオカミ埼玉県支部長
岩堀弘明

Follow me!