詐偽本にご用心!

書名が内容を表わしていない、オオカミを語る詐偽本の見本みたいな出版物があることを紹介します。

山田健著「オオカミがいないと、なぜウサギが滅びるのか
集英社インターナショナル(2015)(1300円)。

実にいかがわしい愚劣な出版物です。著者、出版社ともども、出版倫理からみて断罪されて当然です。書名だけ見れば、あたかもオオカミがウサギを救うかのように受け取られるのですが、開けてびっくり。事実とは無関係な反オオカミ派による感情的な中傷記事なのです。オオカミを放したらウサギやネズミが真っ先にトドメを刺されてしまうとあります。これはもちろん真っ赤なウソ。こんな調子で全189ページがオオカミとウサギで埋め尽くされているなら珍本なのですが、オオカミに関する記述は1ページだけ。ウサギにいたっては1行1語だけ。残りは無関係な内容なのです。まさに詐欺本です。それと承知でお買い求めになるのは勝手ですが、書名をまともに信じてお買い求めになる向きにはご用心と申し上げたい。既に購入された善良な読者には、騙された悔しさと義憤を、著者と出版元へ思い切りぶち当てていただくことをおすすめします。サントリーと集英社にはどんどん抗議したらよいのです。返本して購入代金を回収することもお勧めです。多少のトラブルはあるでしょうが、扱った書店はきっと出版元にクレームを入れることでしょう。泣き寝入りは最悪。
問題の内容は、紹介する価値もないのですが、あえてそのまま記して参考にしていただくことにいたします。

「鹿問題は、オオカミ(とたぶん若い猟師)というアンブレラ種の絶滅が、下位の動物の大発生を招き、ピラミッド全体に引き起こした大混乱の、象徴的な一例にすぎない。と、こう言うと、『だったらオオカミを導入すればいいじゃないか』なんて素晴らしいアイデアを思いつく人が、必ずいる。バカなことを言ってはいけない。300万頭以上もいる鹿をオオカミで減らそうとしたら、いったい何万頭のオオカミが必要になるかを想像してほしい。数万頭のオオカミが日本の山野を駆け巡る光景なんか、絶対に見たくない。その上、オオカミの主食は、通常、もっと小型の動物なのだ。オオカミなんかを放ったら、鹿のおかげでそれでなくとも激減しているウサギやネズミが、真っ先にトドメを刺されてしまうだろう。かつてオオカミがバランス装置の一角を担うことができたのは、彼らがたまに狩りをする程度でもバランスがとれるくらいに、もともと鹿の数が少なかったからなのだ。」(以上、原文のまま)

全部ウソ!あまりの愚劣さに抗議する気も失せますね。この著者の思考回路は滅茶苦茶で軽薄、小意地が悪く、かなり常識外れ、けっこう感情的で、品性の低い人物であることは歴然。東大卒。学歴は立派ですが、東大生も数が多いですから玉石混交なのかも。生態学的知識はあやふやでオオカミの生態についてはまるで無知のようですね。欧米の関係論文など目を通したことがないのでしょう。しかし、肩書は立派。サントリーの要職はじめ、九州大学客員教授、(公)日本鳥類保護連盟理事、(公)山階鳥類研究所理事といった具合。これらの大学、団体はこの人物の正体を承知の上で任用しているのでしょうか。九州大学も落ちたものですね。勤め先のサントリーKKも企業の社会的信用が疑われかねないのではなどと余計な心配をしてしまいます。この手の偽名本にはくれぐれ用心を。

狼花亭

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