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獣害から森を守る!ニホンオオカミの復活

2019 年 12 月 15 日 by webmaster

[富士見市コミュニティ大学講演]
[2019年12月6日(金) AM10:20~11:50]
[会場:埼玉県富士見市立老人福祉センター]

 富士見市コミュニティ大学は、高齢者の社会参加を目的に活動している団体で、富士見市老人福祉センターで毎月2回テーマを変えて、講演会等を活発に開催している。この大学の理事を務めている大木さんは私の高校の後輩であり、以前から講演の要請を受けていたもので、協会埼玉支部としても良い機会を得られたと思っている。当日は、会員登録数約190名のうち150名ほどの皆さんがビッシリと着座されていた。講演中は、オオカミの想像とは異なる意外な姿に、居眠りする人もなく興味が尽きぬ様子だった。まだまだオオカミについての知識は、一般社会に浸透していないと感じた。

【講演要旨】

 自然生態系は、岩石、土壌、水、空気などからなる非生物部分と、植物、動物など無数の多種多様な生物から成る生物部分の二つの部分から構成される複雑系である。この系は、エネルギー流と物質循環によって機能し、地上に生物が出現した45億年前から絶え間なく進化を続けてきた。人類の自然生態系への働きかけは、年ごとに激しさを増している。生物部分は、破壊が許容限界内であれば再生が可能であるが、非生物部分は一旦破壊されると再生はほぼ不可能である。産業革命以降の人口と科学技術の発達による経済の成長は最早地球自然生態系の再生キャパシティーを超えていることが警告されている。たとえ再生が可能であったとしても地質学的歳月を要するであろう。

 最近、山林の保水力の極端な低下も生態系劣化の現象の一つである。我が国の場合、この現象は、増え過ぎたシカにより食い尽くされた山林で顕著である。シカの過剰採食と踏みつけによって植生を失った林床からは土砂が流失し、渓流だけでなく、全国各地のダムにも堆積し、その貯水能力を大きく低下させ、水害の規模増大の大きな要因になっていることが指摘されている。こうしたシカの脅威についての警鐘は環境省のポスターにもみることが出来る。

 わが国の人口は江戸時代になって急激に増加し、これにともなって薪炭、堆肥生産量が増大し、里山の拡大と荒廃が全国的に顕著となった。こうした田畑の開拓にともない、シカやイノシシなどの野生鳥獣も増加した。この一方でオオカミ害獣観が社会通念化し、明治時代になって西欧文化の導入が手伝って、欧米諸国同様に、オオカミは駆除されて絶滅に追い込まれた。

 オオカミは日本では根絶に追い込まれた。しかし、欧米はじめ各国では完全に絶滅したわけではない。中国、ロシア、南欧、東欧、中近東、ユーラシア大陸やインド亜大陸、それにカナダ、アラスカなど北米大陸などの各地でオオカミは生息し続けている。こうした生残地域からオオカミを再導入すれば、オオカミの復活は可能である。また、生残地域からの移入オオカミを保護することによる復活も可能である。現在、欧州各国では24か国にオオカミが保護されて生息しているが、これらは人工的な再導入ではなく、オオカミ自身の移住による。ドイツのオオカミは隣国ポーランドからの自然移入による。フランスでのオオカミの復活は隣国のイタリアやスペインからの移入個体による。デンマーク、オランダ、ベルギーなどの最近の復活オオカミは周辺国からの移入である。

 人の手による再導入は、米国の、イエローストーン国立公園(四国の約半分の面積)を含む北部ロッキー山地で1995・96年に実行され、カナダから運ばれた60数頭からいまでは1600頭にまで増え、さらに周辺地域に分布を拡大している。周囲を海に囲まれた日本の場合、イエローストーン国立公園・北部ロッキーオオカミ再導入事業に倣って、周辺生息地域の中国、モンゴル、シベリア、ネパールなどヒマラヤ諸国から連れてきて放すことによって実現は難しくない。

 イエローストーンではオオカミの復活によって、エルクジカとコヨーテの生息頭数は激減し、ネズミ類や野兎の数が増え、アカギツネも増加した。シカによって食害されていた川辺のヤナギやヤマナラシなどの植生が回復し、川には魚類が増殖し、ビーバーやカワウソが戻り、多くの野生鳥類や昆虫類が戻ってきて、生物多様性は目に見えて回復した。また、川辺の植生の回復によって岸辺や川底の流水による浸食、掘削がおさまり、流れは安定し、生態系全体がシカによる破壊から復旧した。我が国でもオオカミの復活によって荒廃し続けている生態系が救われることが考えられる。

 オオカミの復活は、シカやイノシシによる農林業被害や交通事故を大きく軽減し、国民の生産と生活の安全を守ると同時に、被害防除に要する莫大な財政支出を減らし、国民経済の効率的運用が実現できるだろう。古来より日本の農民は、オオカミのシカやイノシシなど害獣の増殖を抑制するという生態学的役割を認識し、敬意と感謝を込めて神使として神社に祀ってきたのである。

 しかし、今でもオオカミを「人畜を害する猛獣」とみて忌み嫌う人が少なくない。これは誤信である。古来、一匹オオカミも送りオオカミも人を害するとは考えられてこなかったし、じっさいに人を襲うようなこともなかった。日本の地域社会の人たち、とりわけ農民や猟師は、オオカミは臆病で人を恐れ、人前には姿を見せようとしない動物であると考えていたのである。オオカミを悪者、害獣と見なすようになったのは、江戸時代でも飢饉に襲われた元禄時代の1700年頃からである。この冤罪は、明治の欧米追随の文明開化策で上塗りされて、オオカミはついに駆除されて絶滅に至ったのである。

【質疑】

・オオカミ導入は、かつてのマングースの失敗のようなことにならないか。

・童話「赤ずきんちゃん」のように人が襲われることはないか。

・オオカミの姿は?大陸のオオカミとニホンオオカミについて。

・オオカミの絶滅理由は・・・・などであった。

                                    (完)

      岩堀弘明   (一社)日本オオカミ協会副会長)

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白籏史朗氏追悼

2019 年 12 月 9 日 by webmaster

山岳写真家の白籏史郎さんのご逝去(2019年11月30日)に哀悼の意を表します。
白籏氏は、人々の心を打つ、多くの素晴らしい山岳写真を残してくださいました。同時に、日本高山植物保護協会を設立し高山植物の保護に尽力されました。晩年は、日々激しさを増すシカの食害に心を痛め、南アルプスの景観生態の保全とともにオオカミ復活の必要性を訴えておいででした。

2009年10月に同協会が開催した第1回南アルプス100人会議での自由討論において、シカの天敵であるオオカミを放獣したらどうかとの発言があったことを知り、私たち日本オオカミ協会の会員も、2010年7月に開催された第2回南アルプス100人会議に参加し、私たちの活動をアピールしたところ、白旗さんから力強い賛同の言葉を頂きました。 その後2012年1月に発刊された高山植物保護協会の機関誌JASPA NEWS 67号巻頭で、オオカミ再導入を図り、日本の自然界を正常な姿に戻したいとの決意を書かれておいででした。また私達JWAと連携するために丸山直樹会長が2回講演会に招待されています。

私たちJWAも展示等で南アルプスのシカ被害状況を説明する際には白籏史郎さんが賛成してくれていることを伝えてきました。しかし、2016年5月発刊のJASPA NEWS80号には同協会静岡支部活動報告に反対記事が掲載されたことは大変残念なことです。白籏さんもさぞ悔しく思っておいでだったのではないでしょうか。

南アルプスの自然を愛する白籏さんは、高山植物を守るためとはいえ高山帯に人工物のフェンスが設置されることを苦々しく思っておいででした。高山植物保護協会はシカ害の周知とフェンスの設置、管理の強化を訴えていますが、それでは日本の自然界を正常な姿に戻したいという白籏さんの思いは実現できないと思います。オオカミ再導入への白籏さんの強い思いを実現するために、オオカミ再導入にご理解を頂き、ともに実現に向けて活動することをお願いします。これは白籏史朗氏の強い希望です。白籏さん、どうぞお見守りください。

Screenshot of shiro-shirahata.net

白籏史朗氏オフィシャルサイト

一般社団法人 日本オオカミ協会

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【新刊】丸山直樹著『オオカミ冤罪の日本史―オオカミは人を襲わない』

2019 年 11 月 23 日 by webmaster

JWA自然保護教養新書(2019)

オオカミ冤罪の日本史―オオカミは人を襲わない

 多くの人は、オオカミについて大なり小なり、わだかまりをお持ちのようです。「人畜を害する凶獣」といった、かつての国語辞典にあったような「猛獣観」です。オオカミが家畜を捕食することは事実としても、「人を襲い、人を食う」性質があるというのは本当でしょうか。そうだとしたら怖いですよね。これには「赤頭巾ちゃん」のようなヨーロッパの寓話の影響があることは良く知られていますが、日本にもオオカミによる人食いに関する古文書が数多く残っていて、「・・・だから」と口にする人もすくなくありません。日本でのそうした出来事が本当のことなら、今でも数多くのオオカミが生息するヨーロッパや北米、モンゴルをはじめとした国々の人々がいつもオオカミに襲われていないのはむしろ不思議です。

 このような素朴な疑問を解き明かすことが本書の主題です。とすると、わが国の書物や古文書に記されているオオカミ事件を検証することが必要だと考えられませんか。そうした記録にある人食い事件は本当のことだったのでしょうか。古文書の信憑性の検証は歴史学にとっては常識なのですが、オオカミに関する歴史民俗学書でもこうした作業が欠かせませんし、これがなければオオカミを間違って理解してしまうことにもなってしまいます。それはオオカミにとっても私たちにとっても不幸なことだと思います。

 ここで紹介する新刊、丸山直樹著『オオカミ冤罪の日本史』(JWA自然保護教養新書2019)は、オオカミの真実に迫るために、これまで定説のように扱われてきた「オオカミ人食い」に関する事件を、関係文献を参照しながら根気よく検証した仕事です。その方法は簡単です。文書を鵜呑みにしないで、現代のオオカミに関する科学的な知見と照合しながら検証すること、また事件当時の様々な歴史的な事実と照らし合わせて、その周辺や背景を含めて多方面から総合的に解釈することでした。この作業の結果、驚くべき発見がありました。

 なんと、オオカミが人食いの冤罪を着せられたのは江戸時代だったのです。謎解きの結果、“犯人グループ”が浮かび上がりました。

 例えれば、“主犯”は、元禄の飢饉に関わる失政の責をオオカミに着せて幕府の追及を逃れた越中、諏訪高島、尾張、津軽、南部といった諸藩、“教唆犯”はそうした条件を準備強制した、あの有名な綱吉の政令群「生類憐みの令」。そしてこの時代に国外から侵入した狂犬病はもうひとつの“共同正犯”といってよいでしょう。オオカミは狂犬病に罹った犬による人身殺傷事件の罪も着せられていたのです。そして、江戸時代に大いに興隆した出版文化はこれを無分別にも社会に拡散したことで“従犯”としての罪を負うべきでしょう。明治以降、「赤頭巾ちゃん」などの新たな外来の“人食い冤罪菌”が侵入しますが、その定着のための土壌は江戸時代に用意されていたのです。明治以降の権力はオオカミに対して偏見の塊でした。ところで、当時の農民や猟師たちは、オオカミを狂暴な蛮獣といったイメージではなく、そのまるで正反対、オオカミは人を恐れて人前に姿を見せない臆病な動物と見ていたようです。オオカミは好んで人を襲うような動物ではなかったのです。これで、ヨーロッパ、北米、モンゴル、中近東、インドやネパールといったオオカミ生息国の人たちのオオカミ観と一致します。

 本書の狙いは、オオカミ人食いの冤罪を晴らすこと。濡れ衣の元凶は元禄飢饉に窮した幕藩体制下の「大嘘」。古代シュメールの箴言「嘘をつけ、然る後、真実を言え。それは嘘と思われるだろう」。もうこれは卒業しましょう。虚言を繰り返すコピペ出版はおしまい。いつまでもオオカミを信じないで、その復活を逡巡していると、とんでもない災禍を招きます。シカ荒れによる自然破壊、山地崩壊、大洪水、そして豚コレラ流行も。どれもこれも生態系の有力な捕食者オオカミが絶滅したままになっていることが原因です。オオカミに関する誤解を解いて、オオカミ再導入を一日も早く実現しましょう。オオカミ復活の必要性については良く分かっているのだが、人食いが心配だからとためらっておいでの方は是非とも本書のご一読をお勧めします。

丸山直樹著「オオカミ冤罪の日本史」JWA自然保護文化教養新書167頁
一社)日本オオカミ協会2019年11月発行
定価:550円+送料150円

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