オオカミ復活に向けて初の狼煙!
アースディ(Earth Day、地球の日)は、地球環境を考える日として提案された記念日で、2つの流れがある。一方は、1969年に国連により提唱されたもので3月21日である。他方は、米国ウイスコンシン州において、ゲイロード・ネルソン上院議員と当時スタンフォード大学の学生だったデニス・ヘイズによって1970年に開始されたもので4月22日である。これらは、2009年の国連総会で4月22日を「国際母なる地球デー」として採択するまで続いている。私は5、6年前から代々木公園で行われるアースディ東京に通い、いつかブース側の人になりたいと思っていた。「踊るアホウ」になりたかったのである。
今年のアースディ東京は、4月23、24日の2日間にわたり、国際森林年にちなんだアースディ・フォレストやコンサートなど、さまざまな団体による種々のプログラムが行われた。初日は荒天だったにもかかわらず、来場者は2日間で10万人(事務局発表)。わが日本オオカミ協会(JWA)は今年が初参加であった。
アースディの行事は、インターネットで検索すると、主催団体は違うものの、東京だけでなく全国各地で開催されている。一般の人々に、絶滅したオオカミの復活を目指すJWAの活動を知ってもらう良いチャンスである。来年は、会員に呼びかけ、東京だけでなく札幌や大阪など全国各地で狼煙を上げたい。
オオカミブース:来訪者700人以上
JWAは、NPOビレッジに、展示だけを行う74団体のひとつとして出展した。使用できるスペースは、テントの半分3.6×2.7mほどのこじんまりしたものである。1つのテントを2団体で使用することになり、隣人はJWA同様、初参加の木材適正使用相談センター「適材適所の会」である。「森林を守ろう」というミッションは共通しており、オオカミ復活には好意的であった。年老いたキコリは「昔はオオカミがいたから森は健全だった」と語っているそうだ。しかし、隣りの様子が筒抜けなので、間仕切りとしてテントの梁に大きなグレージュの布を垂らした。テントの開放部はL字型である。
パネルの写真は、3月下旬に東京・青山にある国連大学1階展示場で開催予定であった「森を守るもの オオカミの復活展」用に準備したものを流用した。東日本大震災のために展示は中止となったが、アースディで活用できたので、会員の努力は無駄にならなかったと安堵した。
文字による解説は吹き出し程度の最小限にとどめた。狭いスペースでは展示内容に限りがあり、ほかにも数多くのブースがあることから、一瞬でも足をとめた来訪者を会員がとらえ、写真や図を指さしながら各自の言葉で説明を行うほうが確実だと思ったからである。人と人とのふれあいを重視し、JWA会員は特別な人々ではなく、普通のおじさん、おばさん、それに若者だということを知ってもらいたかった。
間口3.6mの開放部に1.8mの机を置き、来場者はその横から入り、間口2.7mの出口へ向うという、L字型の動線を想定した。だが、初日は強風で、断続的に大雨が降ったため、入り口用の3.6mの開放部を閉鎖して、出口用にと考えた2.7mの開放部を、入り口出口兼用とせざるをえなかった。入り口閉鎖によって増えた壁面に急遽、武蔵御嶽神社の「大口真神式年祭」のポスターを増やしたところ、「御岳山は知っているが、オオカミを祀っているとは知らなかった」と、オオカミへの関心がより高まり、会話がはずむという思わぬ効果が得られた。2日目は快晴、計画どおりL字型の動線が実現でき、人の流れは格段に良くなった。「人間万事塞翁が馬」!?
準備の22日を含めるとアースディは3日間にわたり、会員14人が関わった。当日は、用意した「オオカミ復活 Q&A集」がなくなるほどの盛況で、試作したステッカー(図)も大好評だった。訪問者の約8割が署名に応じてくれ、普及活動としては最適な場所である。
アースディ東京は、任意団体の「アースディ東京2011実行委員会」が行う「企画持ち寄り形式」のイベントである。実行委員には、アースディをテーマにイベントを企画・実施する団体や個人が一定の拠出金を支払えば、だれでもなることができる。実行委員は、各自の企画を独立採算制で行うほか、①メイン会場の運営、②広報活動の実施、③予算の管理や報告書の作成、などに関与する。前年度の秋に実行委員の説明会が行われ、定期的な会合がもたれる。パンフレットにも、企画と企画団体名が印刷される。来年は、この実行委員として参加したら、一層、JWAの存在感が増すし、PR効果も上がるのではないか、などと欲も出た。
効果があった「頂点捕食者がいない自然は不自然」という説明
「日本の森にオオカミを復活させよう」というスローガンのもと、パネルに展開したストーリーは、奥山でのシカ害の激化、狩猟者の減少、オオカミの行動と効果、イエローストーン国立公園での再導入とその成果、である。この流れで一通り説明した後、ドイツの田園風景の写真を見てもらい、「ここにもオオカミが復活し、地域の住民と共生しています」と話すと、「こんなに人家が多い場所でもオオカミが住めるの」と驚きの声が上がった(編集者注:今秋開催の連続シンポジウムでは、ドイツでオオカミ保護活動を展開する自然保護団体NABUから専門家を招聘)。
ちなみに、JWAブースの訪問者の第一声は「こんな団体があったのか」という驚嘆であった。続いて「オオカミ好きの集まりですか」と聞かれ、やや複雑な気持ちになった。オオカミは嫌いではないが、ただそれだけだと思われたのでは、巷のペット愛好家と変わらない。私たちにとっては、生態系の中でのオオカミという認識こそ大切なのである。「ニホンオオカミはまだいたんですか?」「日本にはまだオオカミいますよね」などとくると、全然わかっていないことが明らかだ。「だから、日本オオカミ協会が必要であり、JWAは『絶滅』したオオカミの『復活』をテーマにしているのです」と、説明に力が入る。
シカに樹皮を食べられた木の写真を掛け軸にして展示したが、口頭の解説なしでシカ害と気がつく人は少なかった。都会の住民にはシカ害の深刻さが全く理解されていないのだ。かくいう私も、昨秋、天城山や伊豆スカイラインに行くまでは実感できなかった。それまでは、30年前に見た、今と比べたらまだ健全だった自然の光景が幻影として生き続けていたのだ。現実は恐ろしいほどの変わりようである。
シカ害を強調していると、ある女性に、「シカの天敵だからオオカミなの?」と、さもご都合主義で短絡的だと言わんばかりの顔をされた。そうかもしれないが、それでは不本意である。シカによって壊された生態系の修復には頂点捕食者であるオオカミの復活が不可欠だということ、最近のシカの頭数増加は1980年代末から予想されていたことなのに何も本質的な対策はとられてこなかったのだ、などと説明したところ、ようやく納得の顔をしてもらえた。「頂点捕食者がいない自然は不自然」と、ダジャレともつかないことを何人にも言った。食物連鎖の話は小学生でも知っていたが、オオカミが最も強力な頂点捕食者だということはわりと知られていないようだ。少々知識のある人でも、それはオオタカだったり、シマフクロウだったりで、どうやら、これは自然保護団体の勢力と関係があるようだ。JWAは、さらに多くの会員を獲得して、勢力を拡大しないと、オオカミに申し訳ないという気持ちになった。
失敗もある。大台ケ原の針葉樹の枯死林の写真が小さかったことだ。枯死林の写真の中には、これがシカの仕業だということ、昔は昼なお暗く苔むした原生林があったという証拠写真を掲げた環境省製の立札が写っていたのに、写真が小さすぎて判別できなかった。とあるカップルは、枯れた原因がシカの食害だと説明しても「酸性雨の影響では」とどうしても信じてもらえなかった。涙を飲んで説得はあきらめた。「この立札をよく見てください」と言わなくても、目に入る大きさにすべきだったのである。
多くの人が熱心に眺めていたのは「南アルプスの今昔地図」と「ジビエ料理の全国地図」であった。地道なデータ収集・日頃の努力は伝わるものだ。オオカミ好きがかなりいた。友人が、私のfacebookでの告知を見て訪ねてくれたのだが、彼女がオオカミ好きだったことを初めて知った。
よく聞かれた質問は「オオカミは里に出てくるのではないか?」
「オオカミは人間を襲わないか」というより「シカが減ったら、人里に下りてこないか」という質問が多く聞かれた。これについては、米国のイエローストーン国立公園でのシカとオオカミの頭数変化の比較(グラフ)を見てもらい、シカの頭数減少に一歩遅れてオオカミも減少するから、自然にオオカミの頭数も調整され、そうやたらに人里にはみ出てくることがないと話した。「人里に出てきたとしても、滅多なことではオオカミは人を襲いません」と追加した。実のところ、もし襲ったならどうしよう、100%はありえない。現実に、本当にきわめて例外的だが、人身事故は起きているのだ。それは、人がオオカミの餌動物を急速に絶滅に追い込んでオオカミが飢餓状態になったり、狂犬病に罹病したり、住民が不用意な餌付けなどで人なれオオカミを作ったりした場合のことである。しかし、これらはきわめて異例なことで、これらのためにオオカミ復活をためらっていると自然破壊はとことん進んでしまい、生物多様性は失われ、本当にとんでもないことになるのだ。時宜を逃したら、生態系は復活しないかもしれないと、オオカミ復活の必要性を説く声に熱がこもった。そのたびに、天城山の光景を思い出した。イエローストーン国立公園には、クマやバイソンへの近づき過ぎを警告する立札はあるが、オオカミに関しては何もない。オオカミは姿を現さないからだ。猟犬だって人を襲うことがある。いつしか、この言葉へのためらいは払拭され、その分説明は確信に変わっていった。
来年に向けて今から始動!!
アースディの来場者は、自然・環境に関心をもつ人ばかりで、リピーターが多いことでも知られている。地球の環境を心配し、自然環境の保護とその共生を求める人たちのお祭りみたいになっている。初参加の今年は、「こういう団体もあるの!?」と関心をもってもらえたが、来年以降が勝負である。会員の力を結集し、今年より進化したい。その分、オオカミの復活を理解し、賛同してくれる仲間が増えるはずである。
来年は、出展料が多少増えても、テント1張りまるまる借りたい。いわば「二軒長屋」よりも「一軒家」のほうが使い勝手が良いに決まっている。来場者は家族連れが多いので、パネル展示だけでなく、子どもが遊べるスペースもつくりたい。オオカミのスタンプ、オオカミの折り紙、紙芝居、絵本紹介などなど、子どもたちの関心を引き、「オオカミこわい病」「赤ずきん症候群」を癒す機会を提供することにしよう。
今から、準備は始まっている。来年は、全国各地で、JWA公式のぼり(展示内容はJWA会員の手弁当でよいが、のぼりだけは統一されたものを使用したい……)がはためくことを夢みている。 (森永智子)
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