毎日新聞の地方紙に「オオカミ復活」が取り上げられました(1)

信州・取材前線:研究者らの協会、オオカミ復活を提言(その1) 獣害駆除の「切 り札」? /長野

毎日新聞 1月21日(土)11時38分配信

◇ニホンジカ・イノシシ、狩猟者減で打開策なく
急増するニホンジカやイノシシによる農林業と自然植生の被害対策として、研究者 らでつくる「日本オオカミ協会」(会長=丸山直樹・東京農工大名誉教授)が、絶滅 したオオカミを復活させる「再導入」を提言している。国は復活に否定的だが、農山 村の過疎化や狩猟者の減少で獣害に打開策が見いだせない中、「最後の切り札」と関 心を寄せる人もいる。協会が昨年10月に松本市で開いたシンポジウムの内容を報告 し、オオカミ復活論に対する関係者の見方や、再導入・検討事例を紹介する。【武田 博仁】
■欧州で2万頭
協会が松本市で開き、約80人が参加したシンポジウム「ドイツに見るオオカミと の共生」では、ヨーロッパの現状についてドイツ人専門家が講演した。日本と似た人 間の土地利用の中で生息する実態を紹介し「オオカミは怖くない」と訴えた。
報告したドイツ最大の自然保護団体「自然・生物多様性保護連合」のマグヌス・ ベッセルさんによると、かつて欧州各地で駆除されたオオカミは、この30年間で保 護されるようになり、東欧と南欧を起点に生息数が回復。現在は欧州全域で約2万頭 がいるという。
ドイツでは98年から定着し、東部に九つの群れがいる。生息地は里山や農地が広 がる地域で「農村地帯にすんでいる」と説明。適応力が高いオオカミに原生的自然は 必ずしも必要でなく「人がいる環境の中で暮らすことができる」と話した。
最大8頭の家族でつくる群れは、300平方キロと広い縄張りを持つ。移動能力が 高く、1日30~75キロも移動できる。ただ、交通事故や密猟に遭うリスクがある という。
獲物は7割以上がシカ類で、次いでイノシシ。家畜を襲うこともあるが、電気柵の 設置や家畜を守る犬を置くことで「牧畜が盛んな地域でも共存は十分可能」と強調。 家畜が襲われた場合、州が補償金を支払う制度があることも紹介した。
欧州では過去に人を襲った事例もあるが、理由はオオカミが狂犬病にかかったか、 人慣れした個体によるもので「人間は餌ではない。人を襲うのはまれな例」と述べ た。
■国、県は否定的
協会は、シカなどの被害が増えた根本的な原因は「頂点捕食者として生態系のバラ ンスを取っていたオオカミを絶滅させたことにある」と強調。問題の解決には、狩猟 者の確保や農林地の防護策だけではなく「オオカミを再導入して食物連鎖を復活さ せ、生態系を修復することが不可欠」と主張する。
日本では昔から、農作物に害を及ぼすシカなどを捕食するオオカミを尊重してきた が、明治時代の文明開化策で「人畜を襲う害獣」と誤ったレッテルを張られ、駆除で 絶滅に追い込まれたという。
協会は、ニホンオオカミと同一種とされる大陸産ハイイロオオカミの再導入を目指 し、国に要望する署名運動を展開中だ。
だが、国や県は否定的な見解だ。
環境省野生生物課は「今のところ検討していない」と言う。理由は「生態系への影 響など何が起こるか分からない。試験的な導入でも、縄張りの広いオオカミを決めた 場所に閉じ込められる保証はない」と説明する。
長野県環境保全研究所の岸元良輔専門研究員は「生態系維持に必要な存在」しなが らも「ツキノワグマの人身被害が社会問題になる状況を見ると、似たようなことが起 きるのではないか」と懸念する。
一方で、復活を期待する関係者もいる。長野県議会の質疑で取り上げた永井一雄県 議は「シカ害解決に現状では他に方法がない。地域から声を上げる」と話し、2月に 静岡県などの議員とも連携して勉強会を開く予定だ。
1月21日朝刊

最終更新:1月21日(土)11時38分
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120121-00000037-mailo-l20

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