「見狼記」ってなに ?  NHKの変な番組 !?

友人数人から「今晩NHKTVでオオカミ番組があるから観たら」と親切に電話があった。「それでは」と、2012年2月19日夜10時からの一時間もの、ETV特集「見狼記~神獣ニホンオオカミ」とやらを観た。「こんなものよく作ったものだ。ひどいものだねー」とは、観覧後のある友人の感想である。

オオカミ探しの中年末期のオタクおじさんが登場。あちらこちらとオオカミを訪ね歩く様子をつづり合わせたドキュメントもの。最近、山中でオオカミに出合ったという人の現場での証言は、「姿を見たときには恐怖で震えが止まらなかった」。どうして恐怖で震えるのかさっぱりわからない。勝手な想像の産物である。山中で撮影されたという「オオカミもどき」は、紛れもなく野良犬。こんなものにご丁寧な解説などつけないで、と言いたい。オオカミの骨が保存されているという。ご主人の「誰にも見せるな」との遺言を守っている老婦人を訪問。しかし、「どこかにしまったが忘れた」と、とぼけた話。さるオオカミ神社の老神主が「お炊き出し」と称して、御櫃に炊いた米を入れて、よろよろしながら奥山の祠に毎月ささげ続ける光景。ご本人もオオカミが食べるなどとは信じていないが、「それが信仰ならば続けるのが天職だ」との言。以上が、秩父の郷の話。

次は、紀伊半島に跳ぶ。犬の戻し交雑でオオカミを作ろうとして夢半ばで終果てた高校教師についての思い出話。その先生の奥さんは、「自分には理解できないが、夢を追いかけていたのでしょうね」としらけきった一言。その遺産の「戻し犬」の年老いた1頭を世話している迷惑顔の老人。実は、この人もオオカミ犬だなどとはまるで信じていない。すべての証言者は覚め切っている。

狂気としか言いようのないのはオタクの高中年だけ(ディレクターもそうかもしれない)で、いつまでも自己陶酔から覚めることがない様子。挙句の果ては自分が死んだら、オオカミが食べられるように浅い土葬にしてくれと話したところで番組終了。意ならずして、土中の亡骸は土壌動物や微生物の餌食になって朽ち果て、生態系の腐食連鎖に組み込まれることだけは確かである。これだけは良いとしよう。

実にイライラする番組である。じらされた挙句に最後までオオカミは出てこないからだ。オオカミ見たさの視聴者は大迷惑である。「人生の記念だ」と喜んだのは主人公だけであろう。仮想の世界、お化け屋敷の世界だ。番組制作者の意図は不明だ。オオカミはもう狂気にしか生き残っていないし、それももうすぐ絶滅するだろう、と言いたいのか。これだけだったら、番組制作費の無駄遣いでは。野犬を見て「恐怖で身震いする」のは個人の勝手だが、そんな話をTVで流すのは視聴者を馬鹿にしているとしか言いようがない。

オオカミは凛々しく美しい動物だが、別段恐怖を感じるものではない。何人かの人に感想を聞いたら、案の定、番組を見て「オオカミは恐ろしいのかも」という印象を持ったという。オオカミの実像を知らせようと日々地道な活動をしている市民がいる一方で、公共放送がこれではやりきれない。題名が良くない。「見狼記」ではなく「幻狼記」とし、副題は「自己陶酔者の空想の人生」とでもすべきであった。NHKよ、遊ぶのはいい加減にしたら!                                      (狼花亭)

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