日本自然保護協会様:シカによる生態系被害対策、良い方法は見つかりましたか?
「シカ食害対策としてオオカミ再導入というような意見があるが、現実的な解決策とはなりえない。(略)シカの突出を制御し、シカという種も日本の多様性を形づくる一員として健全に維持される状態をつくり出さなくてはなりません。その担い手を誰にするのかについて、会員の方々からのアイデアやご提案をお待ちしています」
これはちょうど1年前、日本自然保護協会の横山隆一常務理事が、同協会の会報『自然保護2011年3,4月号』に『人が増やした獣害問題の解決策の検討 円卓会議に参加しています。』(http://www.nacsj.or.jp/katsudo/chojuhogo/2011/03/post-12.html)と題した会員への呼びかけの一部です。さあ、どのようなアイデア、提案が出されたのでしょうか。この呼びかけに応じて、たぶん、検討会、協議会等が開催されたのではないかと期待しているところです。旧来の狩猟と防護柵に頼った対策以外の有効な提案はあったでしょうか。人が壊し続けてきた自然環境を保全して、野生動物にとって十分な食べ物と生物多様性があるバランスのとれた豊かな森に戻すことが狙いだったと思うのですが、これに関して役に立ちそうな「現実的な解決策」は提案されましたか。
全国各地で新聞にはジビエの記事が多く掲載され、シカ肉、イノシシ肉の利活用は盛んになり、野生動物による被害が広く認識されるようになりましたが、奥山で銃猟を行う大事なハンターは依然減り続けています。3万頭以上のシカが生息するといわれ、高山植物に大きな被害が出ている南アルプスでは、長野、山梨両県のハンターが協力して11月に捕獲を試みましたが、成果は両県合わせて6頭だったということです(2012年1月13日付け朝日新聞長野版)。以前は稜線で見られた孤高なカモシカは、増えたシカの群れに追いやられて、里に下りてきているそうですね。
シカは、南アルプスだけでなく、中央アルプスや北アルプスの山麓にも生息し、高山帯にまで進出し、このままでは壊滅的な被害を受けると報道されています。多くの植生保護柵が設置されても、植生見本園が残されるだけに過ぎませんし、周辺の被害が少なくなることはありません。世界自然遺産の屋久島は、大台ヶ原は、知床は・・・一体どのようになっているのでしょうか。
ハンターが減り続けているのは相変わらずです。ハンターを増やす良い方策は見つかったのでしょうか。ハンターの減少・高齢化対策の一環として、人里近くでのわな猟が増えていることは承知しています。しかし、ワナ猟では、猟犬を使った銃猟のように、シカやイノシシ、サルなどに人の怖さを教え、人里を避けさせる効果はありません。それに里近くの被害が減ったとしても、奥山は依然手つかず。農林業問題に加えて、今後は土壌浸食、崩壊などが目につくようになり、治山問題が深刻の度を増し、頭痛のタネになるでしょう。頂点捕食者の復活に反対して、どのようにして自然のバランスを取り戻すのでしょうか。やはり、あくまで人の手で自然を管理していこうというのですかね。人間は自然を破壊する力は持っていますが、自然を支配できる何か超能力も持っているとお考えなのでしょうか。あなたが呼びかけられたことがSF小説の世界の出来事であることを願います。この瞬間もシカは相変わらず生態系に被害を及ぼし、シカによって裸地化した山肌からはかけがえのない土壌(生物多様性を支える土台)が侵食されて失われ続けているのですが。 (守)