犯人は増えすぎたヤギ 小笠原聟島の生態系破壊

[小笠原ヤギ2012年7月30日]

大洋島の出来事は日本列島のミニ・サンプル!聟島食害

小笠原諸島の聟島。1994年夏、上空から(撮影者丸山直樹)。読売新聞社の取材用ジェット機からは数十頭から百頭以上のヤギの群れが隠れ場所もない島の斜面を逃げ回るのがよく見えた。放置され、増え続けるヤギの恐るべき採食圧で、森林は消滅。15世紀、ハンス・ザックスが詩に詠んだように、この島のヤギは「悪魔の造物」そのものだ。地表を覆う草本群落も消滅。島の緑豊かな生態系を住処にしていた多くの野生生物は死滅した。土壌は流出し、斜面が次々と崩落。流出土砂は入り江を埋め、沿岸生態系の水生生物も死滅。もともと小笠原諸島に草食哺乳類はいなかった。戦前の入植者がヤギを放し、戦後、放置したまま島を去った。天敵不在のままにヤギは増え続け、島の生態系を完全に破壊してしまった。赤色の養分を含まない土壌が裸出し、降雨のたびに崩落が続く。対処が遅れ、生物多様性の破壊を放置し続けた行政の責任は重い。

ヤギを減らすには天敵のオオカミを放せばよいという人もいる。これは深慮を欠いた浅知恵である。小笠原にオオカミを導入するのは不可能である。オオカミが生息するためには、島が小さすぎる。何よりも、小笠原にオオカミは生息していなかったのである。これこそ、外来種問題を引き起こすことになる。正解は人の手によって島からヤギを完全に駆除することである。これに反対する動物愛護論者もいたようだが、駆除を遅らせ、解決を邪魔しただけであった。こんなノイズに判断を妨げられた行政の見識のなさと決断の遅れが問題である。

この小笠原の孤島での出来事は、シカが増え続けている日本列島各地の森林生態系の結末を示すものである。全国の山地は増えすぎたシカに食い荒らされて無残な姿を晒すのは、今のままでは避けようがない。ハンターの減少と高齢化は止められないからである。シカの増加を止め、さらには減らして、適正密度に維持する術がないわけではない。小笠原と異なり、本島は広大であり、もともとオオカミが生息し、生態系の均衡をとる役割を果たしていたからである。だから、頂点捕食者であるハイイロオオカミを再導入することによって、破滅を見る前にシカの増加を抑制し、全国の自然生態系を保護することができる。間違いだらけのオオカミ情報を排除し、科学的な情報に基づく論理的な判断を行い、一日も早くオオカミ再導入を決断するべきなのだ。一刻の躊躇が大きな破壊につながる。小笠原の二の舞にならないように、列島をシカの増えすぎから救うためにオオカミの再導入を実現すべきである。

(2012年7月30日記:狼花亭)

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