河合先生、思いつきは困ります!

賞味期限の切れた動物学者による妄言
オオカミの代役は自衛隊?:先生、思いつきは困ります!

霊長類学者として高名な河合雅雄先生の自然保護に関する提言を週刊ポスト(2013年10月5日号)でみつけました。正直がっかりしました。かいつまむと次のようになりま
す。
「昨近の動物被害の増大は動物たちの反乱である。これは動物たちとの付き合い方が未熟すぎる日本人のせいである。日本では林野庁職員は植物には詳しいものの、動物のプロがいない。森を管理するうえで植物のことは考慮に入っていても、そこに棲む動物のこと
はすっぽり抜け落ちている。感情論を排して野生動物駆除を計画的に行うためには絶滅し
たシカの捕食者であるオオカミ等の代役を人間が買って出るしかない。しかし、猟友会は
高齢化と減少により駆除はもう限界である。ここは、野生動物による被害も自然災害の一
つとして大事な国防と位置づけ、自衛隊に管理を担当してもらえば銃砲使用の訓練にもな
る」
河合先生は、兵庫県立森林動物研究センターの名誉センター長であり、平成22年度の
同センター年報の巻頭エッセイで、ニホンオオカミのシカ捕食者としての能力を過小評価
して否定的に書いておいででしたから、今回は、ほんの少しオオカミに対する理解は進ん
だのでしょうか。しかし、日本の森林生態系の中心柱としての食物連鎖、すなわち「食う
ものと食われるものの関係」については、あいかわらずですっかり触れないことにしてお
いでのような気がします。

当協会のホームページで9月19日に紹介されている「オオカミ、エルクジカとバイソ
ンの関係:アメリカイエローストーン国立公園で観察された『不安な生態系』」という記
事をみると、オオカミが存在するだけでシカやバイソンの警戒レベルが上昇し、オオカミ
による直接的な捕食にプラスしてたいへん大きな影響があると指摘されています。このこ
とは、その後の研究により、オオカミの存在による恐怖はシカの繁殖そのものを抑制して
オオカミが生息する地域でのシカ類の生息密度の適正化に貢献することがすでに実証され
ています。河合先生ほどの学者がこうした論文をまさかお読みになっていないなどという
ことは考えられませんから、意図あって無視されておいでなのでしょう。

オオカミとシカとの関係を十分にご存知であるべき森林と動物の研究者が、絶滅したオ
オカミの代役を人間が買って出るしかないとおっしゃるのは誠に珍妙、理解不能としか言
いようがありません。

また、野生動物による自然災害に対応することも大事な国防であると同意しますが、自
衛隊が出動して管理をすれば解決し、銃砲使用の訓練にもなるというのは2チャンネルで
の書き込み論議もびっくりする短絡的でお気軽な思いつきとしか言いようがありません。
自衛隊には、本来、厳粛で大切な使命があります。野生動物の管理は自衛隊の使命ではな
いのです。そんな甘い考え方で、昨今の厳しい国際関係に生命を賭して対処している自衛
隊の活動を邪魔するのは、不謹慎ではないでしょうか。ハンターの減少対策には、その原
因を深く考察して、安易に自衛隊を持ち出すのではなく、全国で獣害問題を抱えている1
000を超える市町村で、地方公務員としての身分を保証された「常勤公務員ハンター制
度」を新設整備し、同時にオオカミ復活を進めることこそ「国防」対策として真摯に取組
むべき喫緊の課題であると考えられませんか。里山はハンター、奥山はオオカミ」とい
った役割分担です。高齢動物学者のお気楽発言といえどもある程度は深みのある、考えさ
せられる内容が欲しいものです。もう一言申し上げれば、人間による自然管理など身のほ
ど知らずというもの。「動物たちの反乱」は、この思い上がりをたしなめているのです。
謙虚に、「自然のことは自然の手に」ということでオオカミが復活した自然による調節に
期待をつなぎ、ボロボロになった日本の自然生態系の復元のためにどのようにすべきか、
もういい加減に目を覚ますべきでしょう。その実現に努力したらいかがでしょうか。

広く世界を見渡せば、半世紀近く前から多くの国でオオカミは生物多様性の象徴として
保護・再導入が研究され、具体的に進められています。また、かつて日本では信仰の対象
でもあり、現代でも全国に寺社などでその存在を示しています。河合先生による「日本各
地の動物たちの反乱」の原因の一つは、森林と動物の専門家の先生たちが不勉強の挙句に

世評だけを気にし、権力におもねって御用学者に成り下がり「思考停止」に陥っている人
災及び老害にあるという見立ては間違っていますでしょうか。
(2012年10月9日記:井上守)

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