クマの好物キイチゴ類の回復を早めるイエローストーンのオオカミ
BBCニュースのレポーター、サイモン・レドファーンは、「イエローストーン国立公園へのオオカミの復活はグリズリーベアの食べ物の改善につながっている可能性がある」と指摘する「動物学会誌」の論文を紹介している。
○二十世紀初め、オオカミがイエローストーンから根絶させられて以来、急増したエルクジカ個体群によってクマが依存するキイチゴ類の潅木群落は荒らされ放題だった。オレゴンとワシントンからの研究者のチームは、捕食者オオカミの再導入とエルクジカによる過剰採食の低下を結び付けている。グリズリーベアの穴ごもり前の好物である食べ物であるキイチゴ類の晩夏の実のつき方が、その結果増えているのである。この研究では、その証拠として、1990年代のオオカミ復活に続いてのエルクジカの減少につれて、クマの糞から検出されるキイチゴのタネが倍増していることが報じられている。
○イエローストーンの生態系の複雑な相互関係は、オオカミ再導入前後の比較計測によって示されてきた。合衆国地理研究所(USGS)の野生動物学研究者のデイビド・マトスンは、イエローストーンについて以前つぎのようなコメントをしている。「それは複雑なシステムなのであり、グリズリーベアは、ある意味でこの生態系に含まれるあらゆる生物の頂点を極めるコネクターなのだ。」
○エルクジカの個体群が減少するにつれてキイチゴ類の潅木群落は増加し続け、潅木群落が過剰採食から回復するにつれて、クマたちの果実の消費は増加し続けている。
○この論文の第一著者であるウイリアム・リップルがコメントしている。「野生の果実はグリズリーベアの食べ物の中でとりわけ大切なものである。彼らができるだけ早く穴ごもりの前に体重を増やそうとしている晩夏には特にそうなのである。」
○「エルクジカの採食がキイチゴの生産を減らすことはヨーロッパでも良く知られている」と、オスロ大学の生態学者アトレ・マイストルドは言う。この研究は、キイチゴ類の新たな群落がオオカミが再導入後に形成されたことを示している。キイチゴの生産がグリズリーにとってきわめて大切であることは明らかである。
○しかし、エルクの減少はまったく良い知らせかというとそうでないかもしれない。イエローストーン北部のエルク個体群は1988年には19,000頭が捕獲されていた。しかし、前年冬の推定頭数はたった3,900頭に過ぎない。
(BBC NEWS SCIENCE & ENVIRONMENT 29 July 2013)
訳注:グリズリー(ブラウンベアUrsus arctosの北米に生息する亜種、北海道のヒグマも亜種)体重♂135-315kg、♀90-180kg、イエローストーン国立公園には、グリズリーよりも一回り小さいアメリカクロクマ(体重♂95-150kg、♀60-90kg)も生息。両種は同じ場所で観察されることもある。オオカミが捕獲したエルクジカなどの獲物を食べる。本州以南には、さらに小型のツキノワグマが生息。ヒグマやツキノワグマは雑食性なので頂点捕食者ではない。オオカミによってツキノワグマは減少すると心配する人がいるが、これは間違い。オオカミの復活によって、現在多すぎるシカが適正な密度にまで減少すると、ツキノワグマやヒグマの餌である木の実や蜂の巣などが増えるので、オオカミ復活はクマ類のためにもなる。