山梨県獣害対策レポ:富士川町南アルプス市

獣害防止用の侵入防止柵:山間地の農業を守れるか?
オオカミ復活を急げ!OLYMPUS DIGITAL CAMERA

○三重の防止柵

富士川町から南アルプス市を経由して北杜市の武川町までの中山間地域の獣害対策状況を見て回った。
櫛形山沿いの耕作地には、獣害対策用の電気柵がおおむね張り巡らされている。だが、やはり万全ではなく、サル、シカ、イノシシの侵入は防ぎきれてい
ないようで、戸別に田畑を網で囲い、独自の対策を講じているところがところ
どころ見受けられた。
南アルプスの麓、武川町へ入ると状況が変わった。網で囲ってあるところが
やたらに多いという印象である。だが住民は嘆く。「電気柵は数年前に作った
がそれでも獣害は絶えない。もう何をやっても効果はない」
その言葉を裏付けるように、地域によっては、電気柵があるのに、内側に隣
接する畑がさらに網で囲われている。それなのに耕作はされていない農地が広
がっているのだ。不思議な光景だと思い、近くの農作業者に聞くと、被害に堪
え切れなくなって耕作しなくなったのだと言う。その人は、電柵の内側に更に
自前の電柵を張って、その中の作物に更に網を掛けていた。近くの別のスイカ
畑ではスイカを取られないように、その上1個ずつ箱を被せ、おまけに鉄杭で
固定してあった。また別の畑では、上面まで網で完全に囲って、はじめて作物
を植えられるという。このようにそれぞれの農家が3重柵という対策を講じて
いるのだ。エーッ?ここまでやらなければだめか!これでは人の出入りもまま
ならないではないか。これには感心と同時に絶句してしまった。ここまで対策
するには大変な労力とお金を費やしているであろうに。

○零細な戸別営農にとって柵は重荷

OLYMPUS DIGITAL CAMERA いまや山梨県ではほとんどの地域で電気柵による対策を講じているが、近々ここ武川町のようにそれだけでは防ぎ切れない事態になるであろう。それでなくても零細な戸別農業経営を続けるためにこれだけの投資をしなければならないのは大きなハンデである。自給農業としても、耕作意欲を大きく削がれてしまう。これではどう考えても、地形など条件の悪い山間地農業の見通しは悲観的である。獣害地帯の営農は「半日耕作・半日獣害」対策と言われているが、それでも農業を続けることができるのだろうか。そうでなくても高齢化によって体力が伴わなくなっているのに、いつまで続けることができるのか不安が募る一方であろう。守りの一手の柵だけでは被害防除は限られたものである。これでは敵の大群に包囲されて孤立し落城寸前の砦みたいである。加害獣の個体数コントロールという攻めの姿勢が不可欠である。それには、里山は人手による狩猟・駆除、里山から奥山まではオオカミによる捕食圧という組み合わせが欠かせない。この費用対効果は抜群であろう。山間地零細営農を守ろうというのなら、守り手としてのオオカミの復活を急ぐべきである。

(2013年9月1日:JWA理事 山野井英俊)

 

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