ペイン博士の発見を理解できない日本の環境保全関係者
ロバート・ペイン博士が花の万博コスモス国際賞を受賞:
ワシントン大学名誉教授ロバート・ペイン博士が公益財団法人国際花と緑の博覧会記念協会2013年(第21回)コスモス国際賞を受賞されました。
ペイン博士は、自然生態系の構成と頂点捕食者がどのような役割を持つのかを理解する上で、「キーストーン種」「栄養カスケード」という2つの概念を提唱し、頂点捕食者が生物多様性の維持に重要な役割を果たすことを解明しました。今日の生物多様性を考える上で重要な指針を与えたことが、「自然と人間との共生」をめざす同賞にふさわしいと評価されたことが受賞の理由です。
博士は、1966年に岩礁潮間帯から捕食者であるヒトデを取り除き、生物群集の変化を調べる実験を行い、この結果、ヒトデの除去で種の多様性が低下し、頂点捕食者は、下位の多種生物の共存を可能にしていたことを発見しました。博士の研究後、シカの個体群を調節し、森林を守るオオカミなど多くのキーストーン種が明らかにされてきました。イエローストーン国立公園では1995年にオオカミを再導入し、生物多様性が取り戻されたことは、多くの人の知るところとなっています。
ところで、日本では約100年前に、日本列島からキーストーン種のオオカミをすべて除去するという愚かな行為が行われました。この結果、ペイン博士の発見のとおりに日本各地で生物多様性が著しく低下しています。しかし、現状を正しく理解できない環境保全関係者が多数います。シカが増えたのは温暖化が影響していると、この人たちは考えているようですが、寒冷化すれば、シカの頭数は適正に抑制できるのでしょうか。
オオカミ復活に関する国民の理解は進んでいるにもかかわらず、これに対して「時期尚早」「オオカミは外来種」などと反対する研究者、行政担当者、自然保護運動家がいるのはあきれたことです。信じられないことですが、博士の功績を、生態学・保全生態学を専門分野とする選考委員として評価された鷲谷いづみ東京大学教授も、オオカミの復活による「自然と人間の共生」を理解できず、ハンターの捕獲で人為的に野生動物の個体数を管理するお考えです。原理主義的な硬直した考えに凝り固まっているため、保全生物学の本質、生態系の進化学上の本質を理解できずにいるからでしょう。悲しいことですが、緊急を要するオオカミ復活は、市民運動を展開する形で進めざるを得ないようです。
(井上守)