保護運動の勝利!駆除を免れたノルウェーのオオカミ

このレポートは、鐙麻樹氏によるYahooNewsとECOWATCH COM, FRIENDS OF THE EARTH, IUCN Canid Specialist Groupのレポートを取りまとめて紹介します。

ノルウェー政府は昨年9月、国会で国内に生息する野生のオオカミ約68頭の内47頭(約70%)の射殺を法的に承認した。ノルウェーでは、野生オオカミは保護動物として1971年に指定されている。それ以前は15~35頭とわずかだった。人を避ける野生のオオカミとの遭遇はまれで、200年以上オオカミによる死亡者はゼロである。最近の統計資料によると、オオカミが原因のヒツジ(約195万頭)の死亡率は約1.5~3%。にもかかわらず、国会が野生のオオカミの射殺を承認したのは、ヒツジ農家達の強い圧力の結果のようである。ノルウェーのヒツジは、他国と違い牧場内で放牧するのではなく、牧場の外で自由に放し飼いされている。ヒツジが死亡する原因は、「オオカミが殺すからだ」というヒツジ農家達の強い訴えを管理当局が認め、狩猟を許可したのである。ノルウェーの現行法では、オオカミを射殺できるのは農家への損害防止の最終手段であり、家畜を襲ってもいないオオカミを勝手に射殺できないことになっているにもかかわらず、管理当局は射殺を容認したのである。

石油採掘以前は農業国だったノルウェーでは、「農家」「農民」は強い影響力を持ち、政界の主要な政党は「オオカミ射殺派」で、「オオカミ保護派」は環境政策を得意とする小政党のみという。野生動物のヘラジカと遭遇する確率はオオカミよりもはるかに高く、他の野生動物の方がヒツジを殺していても否定的なイメージはオオカミのほうが強い。ヒツジが他の動物に殺害されてもニュースにならないが、オオカミに殺されると大きなニュースになってしまう。また、人間にとって危険なホッキョクグマは狩猟対象として政府に認められていないし、むしろ観光でホッキョクグマを見物に訪れる人々が絶えないという。

ノルウェー在住のジャーナリスト鐙麻樹さんは「北欧ノルウェー便り」で、この国は、野生オオカミに対しての誤解が多く、「恐怖心」を植え付けられている人が多いと伝えている。産業構造の変化で、オオカミ保護派の都市住民とオオカミ駆除派の地方住民(農家派)とのかい離が見られ、教育現場でも「野生オオカミ」については賛否両論、話題にしにくいテーマの1つだという。ヘラジカを捕食するオオカミとヘラジカを狩猟対象としている人間との競争関係や伝統文化として狩猟が息づくこの国では、他の野生動物を捕獲するよりも「オオカミを撃ち取ることは、かっこいい」と受け取られること等を考えると、この問題の根底にはヒツジの命が大切ということが議論されているのではなく、人間の欲や思い込み、意地が絡み合って困難な状況を作り出しているのではないかと考察している。この国の政治家は、農業や労働市場の活性化のために、「有権者でない動物」よりも、環境推進派よりも、歴史の長い農民を優先するのかと問う。農民派か反農民派かの視点で議論される現状では、その先の未来に野生動物はいるのだろうかと疑問を投げかけている。

オオカミ射殺を決めたノルウェー政府に対し、ノルウェー国内外の環境保護団体は、ヒツジ死亡の原因がオオカミ以外にも多々あることやヒツジ農家の管理責任も追及されず、動物と人間との共存を模索することなく短絡的にオオカミ射殺を決めたことに、「大虐殺」だと抗議行動を起こした。国会の射殺承認のニュースを聞いて、国内外の7万人以上が反対署名し、約7000人の活動家達が担当大臣にインターネットを通じて接触したという。3か月後ノルウェー政府はオオカミ射殺許可を撤回し中止を決めた。一度国会承認された事項を、数か月後に白紙撤回するというのは稀有のことである。
頂点捕食者の絶滅は国土崩壊に及ぶ国の大事でにもかかわらず、オオカミの再導入・復活を求める提案に対し、「現在生息しないオオカミの導入は慎重に考えることが必要である」と検討を拒絶する環境省と、それを翼賛する日本の環境保護団体には、この問題に対する関心はなかったようである。1970年代から自然生態系における大型肉食動物の重要性に気づき、その復活を進めているヨーロッパの国々と大きな差が生じている。

千葉県 花咲万代

参照:ECOWATCH COM,FRIENDS OF THE EARTH, IUCN Canid Specialist Group記事
   鐙麻樹「北欧ノルウェー便り」、Yahoo News記事
   フォレスト・コールNo.9p31~33「ノルウェイのオオカミ」

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