林業者の叫び:台風で防獣ネット破損、シカ侵入で二次被害
社会は林家の苦痛に向き合い、オオカミの復活を!
台風の後は、植林した造林地の見回りをしなければいけません。防獣ネットが破損していた場合、一日とおかずシカが侵入してくるからです。
傾斜地で延長何キロもの造林地のネットを一周点検し、修繕して回るのは大変な労力です。破損個所が複数あれば一日では修復できません。修理せず放置していたら数ヘクタールの造林地がまるまるシカの食害にさらされます。翌年の夏の下刈り時にはほぼ全滅というような造林地もでてきます。
1haの山に木を植えるには国庫補助金も含めて100万円以上かかります。社会の、また森林所有者の経済にとって大きな損失ですし、それに加え作業者にとっても自分たちが希望を込めて植えた苗がシカの食害で台無しにされていってしまう精神的なダメージは非常に大きいです。
林業は自然と隣り合う職業ですから日常的に、また災害などの時に自然のことについて考えさせられます。もし現在オオカミがいて、それでもシカが造林地に寄ってくる分には仕方ないあきらめがつきます。それが本来の自然なのですから。しかしオオカミを絶滅させてしまった生態系でシカが増えすぎて人間活動に害をなしているのなら、こんな「不自然な自然」と付き合っていくのは苦痛です。
その苦痛を知らない人が多い。社会はその苦痛にきちんと向き合って欲しいです。それができてから、日本社会は本当の「自然との共生」を始めることができるのではないでしょうか。
大槻国彦 (奈良県在住、林業)