北上山地をシカ北上:早池峰山のお花畑も食害!
オオカミ再導入でしか生態系は守れない!
日本百名山の一つとして知られる北上山地の早池峰山(標高1917メートル)がシカによる植生被害を大きく受けている。麓から中腹あたりで林床の低木や草が食べ尽くされ、高山帯では土斜面がむき出しになっている。
シカは五葉山方面から北上して2010年頃から姿を見せ始めた。山頂を中心とした120平方キロメートルで調査が行われ、2011年から2017年の6年間で生息密度は1平方キロメートルあたり1.5頭から8.2頭へと5.5倍も増加し、一部では30頭近くが生息も。
シカの増加による被害は短期間に壊滅的に生じることから、貴重な植物が多くあり高山植物の宝庫といわれる自然景観を守るため、県や自然保護団体は危機感を持って管理の強化と保護柵の設置が進められている。しかし、これでは根本的な解決にはならない。現在の景観は、南アルプス、日光、尾瀬、天城山、霧ケ峰、三嶺山、伊吹山等の惨状と変わらない。対策に当たる県や研究者は、温暖化と積雪量の減少でシカが越冬しやすくなり、シカの活動範囲が広がったといつも通りの説明を繰り返しているが、シカの増えすぎ抑制機構が生態系から無くなっていることが問題なのである。少子高齢化による人口減で耕作者がいない農地が自然に戻り麓に餌が豊富になっていることはもちろんだが、同時に狩猟者の減少と捕食者オオカミの絶滅こそが主因である。これに口を閉ざす環境行政は批判されて当然である。このままでは国土崩壊は避けられない。(井上守)