WOLF LETTER #3

熊野の森オオカミみゅーじあむ通信

【森林のシカ問題の解決は生態系の自然調節で】

 
 日本の森林問題と言えば、かつてはスギ・ヒノキなどの人工林を植えすぎたこと、手入れが行き届かないことでした。戦争で荒廃した山野を回復させるとともに旺盛な木材需要に応えるため、国策として天然林を伐採してでも人工林を増やしたのです。しかし植えた木が大きくなる前に、国内外の情勢により木材の関税が撤廃され輸入材が増加しました。国産材の価格は下落し大面積の人工林をかかえながら日本の林業は低迷しました。

 いま日本の森林で大問題なのはシカの増えすぎです。シカは森林の下層植生を食べ尽くしてしまいます。希少な植物だけでなく、それらに依存する鳥類、昆虫類なども絶滅の危機に追いやります。下層植生の減退や消滅は土壌流出をもたらし、土壌生態系という小宇宙をも破壊します。

 シカが人里に出没する原因は人工林の拡大によるエサ不足ではなく、シカの個体数が増えたことです。天敵のオオカミが明治時代を最後に絶滅、そして狩猟者が昭和50年頃から減少したことにより、シカは平成元年以降9倍に増加し本来の棲息密度を大幅に超えてしまいました。奥地森林で下層植生を食べ尽くしたシカは、低標高地でも下層植生を減らし、そして人里にあふれ出てきたのです。いま人工林・天然林を問わずシカが食い残した有毒植物が増え生物多様性が減少しています。


 対策は生態系の自然調節(natural regulation)の復元です。健全な生態系ではオオカミなどの捕食者がいてシカが増えすぎたら食べて減らします。シカが増えたらオオカミが増え、シカが減ったらオオカミも減るという、いわゆる「自然のバランス」のはたらきです。

 人間のハンターは「社会や経済の流れ」に従うものです。明治時代には経済のために森林を切り開いて野生動物を乱獲しシカは絶滅寸前となりました。戦後の高度成長期の社会変化で山村の過疎・高齢化が進みハンターは減少、そしてシカは激増しました。ハンターが目指すべきは健全な自然のバランスの中で野生動物を獲り、人里を野生動物から守ること。生態系の自然調節の肩代わりは荷が重すぎます。

 自然調節の回復とはすなわちオオカミの再導入です。それは単に一つの動物の復元ではなく、生態系の自律的な調節の機能を復活させ、人間の管理に依存せず持続可能な姿へと回復させる、「日本の自然まるごと再生プロジェクト」なのです。

【ヒグマはエゾシカを食べる動物】

 北海道羅臼町でヒグマがエゾシカを捕えた衝撃映像がニュースになりました。一般に北海道のヒグマは草食に近い雑食とされています。しかし、海外のヒグマは大型の体格を生かしてオオカミが捕らえた獲物を横取りする習性があります。日本でも明治時代までヒグマのエサは半分以上が肉だったいうことが判明しています。

北海道ニュースUHB【ヒグマ速報】羅臼町の国道でクマがエゾシカを襲うのを車内から撮影_クマはシカの首元をくわえ林のほうへ…(北海道)


https://www.uhb.jp/news/single.html?id=52569

 北海道のヒグマのエサは明治時代にエゾオオカミが絶滅するまでは56~64%が陸上動物で、明治以降急速に草食化が進み5~8%に低下しました。論文を発表した京都大(当時)の松林順氏はエゾシカ個体群の頭数を抑えてきたのは天敵のエゾオオカミだけでなく、 エゾオオカミの獲物を横取りすることでヒグマもその役割を果たして来たと推察しています。

北海道のヒグマは開発で肉食から草食傾向へ
https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20150330_03/

 まだ生きている大きなオスのエゾシカの喉元に食いついて引きずるヒグマの映像は衝撃的ですが、明治時代までヒグマの肉食自体は普通のことでした。本来のヒグマの生態や食性が100年あまりで失われることは考えにくく、今後オオカミが復活すれば、ヒグマはオオカミの捕った獲物を横取りするという形で本格的に肉食を取り戻し、増えすぎたエゾシカを減らすという生態系を健全に保つ役割を果たしていくことでしょう。

【新スタッフ紹介】

今年度から、当みゅーじあむが場所を借りている「kumano森のふくろう文庫」の安原店主が解説員として展示の解説をしています。欧米からのお客様はオオカミ再導入の必要性をすんなり理解してくれる人が多いそうです。欧米では近年オオカミの生息域が拡大し人間との再共存が進んでいますし、絶滅した大型動物の再導入も実施されています。皆様も店内カフェで一服しつつ世界各国のオオカミ事情やこぼれ話を聞いてみてください。

【入会のお願い】

シカやイノシシの増え過ぎによって山林の荒廃が進んでいます。特にシカの過剰な採食によって、森林の植生が減退・消失し、土壌が流失し、山地の土砂災害まで発生しています。農林業の獣害や動物との交通事故、人身被害も増加しています。(一社)日本オオカミ協会の会員になってオオカミ再導入による食物連鎖の復元・自然の再生について知ってください。素晴らしい日本の自然を取り戻しましょう!

Follow me!