南アルプスで前代未聞の500頭のシカの大群

〜 オオカミ生息は日本の生態系の成立要件 〜

 南アルプス(長野県大鹿村)で500頭を超えるシカの群れが撮影されました。前代未聞の衝撃的な光景ですが、これはまだ序の口かもしれません。その場所の環境収容力を超え、生態系が自己崩壊している状態と言ってよいでしょう。

 森林が草原化し、草原が裸地化しつつある大変深刻な状況とみられます。ではこの森林やお花畑を食い尽くすシカを減らすことは、本当に人間の狩猟の役割と考えて良いのでしょうか。「生き物にはそれぞれの大切な役割がある」と言えば誰にでもわかるでしょう。シカの数を調整するのはオオカミの役割です。

 生態学的には、オオカミなどの天敵がいない場合にはシカがいったんその環境での個体数の限界に達するとエサ不足で大きな割合が死に、その後植生の回復とともにまたシカが増え、再びエサ不足になって死ぬというパターンを繰りかえすことが、ライニー(Riney)の爆発的振動モデルとして知られています。今回のケースのように脆弱な植生が成立している場所での極端に大きな群れの形成は、シカ個体数の爆発的振動が不可避であることが強く想起されます。そして爆発的振動を繰り返すことで本来の植生を基盤にした生態系は破壊され、生物多様性を失い、劣化していくことになります。爆発的振動を起こさないためには天敵オオカミによりシカの個体数が自然調節されることが必要です。言い換えればオオカミの存在は生態系が安定して維持されるために必要な要件ということです。

 絶滅したオオカミを再導入し生態系を修復することは、オオカミを絶滅させた原因である人間ができることであり、特に島国日本では人間にしかできないことです。人間がオオカミを再導入しない限り、日本の森林生態系、草原生態系の食物連鎖は修復されず、爆発的振動を繰り返しながら自己崩壊をしていく運命から逃れられません。これまで1960年代から大台ケ原、丹沢、1970年代に日光、1980年代に知床でシカの増加による植生被害、森林破壊が問題となり、1990年代からは関東以西で森林被害・農業被害が発生するようになりました。そして近年の気候変動・積雪量の低下にともない白神山地など東北地方への被害の拡大が懸念されています。いまや日本列島全体がまったなし、一部では土砂災害が発生するなど手遅れと言ってよい段階まで被害が進行しています。

 狩猟により野生動物を管理して生態系のバランスを維持していくということは、人間の影響下にある自然に対して成立する方策です。原生的な自然を含む広大な奥地森林や森林限界付近の草原を保護していくための政策としては不適当で、この映像のとおり実際に失敗しています。政策が失敗であったことを自覚し、これまで避けてきたオオカミの再導入、本来の意味での生態系の修復に本気で向きあわないといけません。日本列島にオオカミが生息していることが日本固有の森林生態系の成立要件であることを認め、いますぐ生態系の修復に舵を切るべきでしょう。

※ ニホンオオカミ、エゾオオカミは大陸のハイイロオオカミの亜種であったことが判明しています。オオカミは環境適応の範囲が広い動物ですから、極端に日本と異なる環境の個体でなければ生理的、生態的に日本の環境になじめるでしょう。ニホンオオカミの代替としては体サイズがなるべく小型なものを選定、エゾオオカミの代替としては遺伝的に近い極東またはカナダ西海岸のものを選定し再導入することが適当と考えられます。絶滅したオオカミにより空白となっていた生態的地位(ニッチ)が再導入されたオオカミによって埋められ、生態系の修復がなされます。

『 環境省南アルプス自然保護観事務所のインスタグラム 』
https://www.instagram.com/p/Dcj_ToGgc-i/?hl=ja&img_index=1

『 南アルプスにシカの大群 山肌埋め尽くす500頭 地元住民「見たことない」【もっと知りたい!】【グッド!モーニング】(2026年8月30日) ANNnewsCH 』
https://www.youtube.com/watch?v=0Zgh7RM66IM

大槻国彦

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