報告:夏休み企画・阿蘇オオカミミュージアム

「オオカミフィールドミュージアムin阿蘇」

実施報告書aso

夏休み、親子連れを対象に、閉校された木造校舎の2教室をお借りし、1室はパネル展示(オオカミの生態、海外でのオオカミ再導入の紹介、シカの被害状況、当協会の提言など)でオオカミの遠吠えなどをBGMとして、もう1室はシアター(丸山先生のポーランドでの活動レポート、日本におけるオオカミを求める動きをまとめた番組の紹介、海外のオオカミの映像など)やたくさんの絵本、書籍・資料の閲覧を300名以上の方々にご参加いただくことができました。

 

IMG_1004会場には、今回お借りした教室以外にも「絵本の教室」、「木のおもちゃの教室」などがあり、多くの方がすぐ帰られることなく、ゆっくりとした時間を過ごされるので、会場に来場されたほぼ全員に本催事をご覧いただくことができ、お話しすることもできました。また、シアターの1室にカフェを併設したことで、お茶を飲みながら長くお話しできた方もその内の1割程度はいらっしゃいました。週末には主人もカフェの加勢をしてくれ、コーヒーをお出し出来たこともよろこんでいただけていました。

 

IMG_1155期間は、8月8日(木)から9月1日(日)までの3週間強、実働19日間(火・水が休館日)。夏の訪問が一番多い観光地「南阿蘇」で、環境と時期に恵まれ多くの方にいらしていただくことができて良かったと思っております。私も連日、「今日はどんなお客さまがいらしてくださるだろう」と楽しみながら、子ども(3才)と一緒に過ごすことができました。

 

IMG_1121子ども向けに展示室では、来場記念にスタンプをおしパネルを見ながら進むクイズラリーや投票(「オオカミが日本の森にいてもいいですか」とういう内容の子ども向けのアンケート)、シアターカフェでは絵本の読み聞かせやオオカミの折り紙・お面づくりなども用意していたので来場された子どもたちも本当によく楽しんでくれていました。折り紙で作成したオオカミにはオオカミに対するコメントを書き込んでいただくことができ、「強い」とか「かっこいい」などのコメントが多く、「怖い」や「嫌い」などのコメントはほとんどありませんでした。お面づくりでは、フォレストコールに掲載されているイラストに色を塗り、牛乳パックで簡単に作れて出来たお面を喜んで着けてくれていました。親御さま向けには、パネル・本などの感想を書いていただき、親も子も、ご参加いただいた先着100名様に小さなオオカミのフィギュアをプレゼントしました。また、アンケートは受付すぐ、展示室入り口前に設置し41名の方にご記入いただくことができました。

 

来場者は、おじいちゃん・おばあちゃんを含めたご家族、近所の子どもたち、20代から50代のお友達同士、会場のインターンシップで訪れた大学生、バックパッカー、お盆休みで海外や国内様々な所から帰省された方々、旅行で訪れた方、村内の子育て中のお母さんや知人、会場でアートの展示をされている作家さん、近所の農家さん、動物愛護協会の方、建設技術者、小学校の教員、小学生の課外授業で訪れた団体、町の教育委員会など本当に様々な職種の方々に来て見ていただくことができ、100組程の方々とお話しすることできました。IMG_1116

 

そのうち、「チラシ」「テレビ・ラジオ」「協会のHP」「協会の会員の紹介」などで本催事を知って来られた方は2割程度でした。また、県の森林整備課・町の町長・環境庁所管施設の館長・森林組合の所長など森林被害を身近に感じておられる行政関係者にもお知らせしましたが、いずれの方々にもご来場していただくことはできませんでした。19日間も開催していたのに残念です。

 

IMG_1011来場者との対話で「なんでオオカミなのですか?」という質問から始まることがほとんどで、それはチラシ配りの時からそうでした。周辺の飲食店などの店主へ持って行った際も、よくこの声が聞こえました。ネットでは、facebookでページを作成し告知をしていましたが、環境への意識がある友人、知人からも同じでした。どこでも繰り返しゝ「なんでオオカミなの?」。

来場者の多くの声「たまたま遊びに来た。オオカミに興味がなかった」

 

IMG_1015展示を見た、書物を読んだ。ほとんどのお客さまからは、「オオカミって大事な生き物だったのですね~」というご感想を聞かせていただけ「ホッ」とし、日本でも再導入の検討を進めていくように働きかけなければならなく、外来種という見方も、説明すると簡単にご納得いただけた。ほとんどの方、むしろ子どもも対象としてわかったことは、小学生でもわかる明らかな食物連鎖の崩壊。オオカミの生態を理解するといない方が不自然で、人と共生できること、なにより共生していこうという意識が大切であることもご理解いただけた。その中でも地元の方や水俣や宮崎方面など地方から来た人の多くは、本当に農作物の被害に困っていて、シカが道路を横切る姿を度々見かけると話しをされていました。実感を持って話しを聞いていただけると、一緒に解決していきましょうと活動のお誘いをすることもスムーズにできた。

 

IMG_1062ただ、お客さまとの会話で「どうしても絶滅したオオカミを日本に連れてくるのが納得いかない」とおっしゃる方々もいた。一通り見て話しもした後でもそうだった。そういう方の主張はだいたい反対に一点張りでどう説明しても疑って首を傾げるばかり。いまの国の考えや体制とまったく同じだった。来場者の内1割も満たないくらい数名の方々ではあるのですが、主な主張は「人間がオオカミの代りをするのじゃダメかね」「今は奥山にも人がたくさん住んでいて、開発もしすぎている」「そもそもなんでオオカミがそんなに大事なのかね」「今の日本人の認識じゃまたオオカミが殺されてしまう。かわいそう」という。そういう方々には、陸上の動物で肉食動物である「頂点捕食者」の大切さが伝わらない。世界中にオオカミが生息し、他国の事例を参考に共生できる証拠を出していても信じられない、狩猟だけで解決しないことなどの説明もしたが何を言っても不信の目だった。明らかにその人たちの心の中にあるのは、オオカミを野蛮な悪い生き物として見ているところにあると思った。オオカミの必要性がわからない背景には自然に対する意識、人間・オオカミ・緑の砂漠、どこに視野を置いて考えるのかもあった。この意識の違いから、こういう質問になるのもいたしかたないかとも思えた。懸念される方の多くは、家畜より人間がどうのという人間中心的主義の思想ばかりだったこともはっきりした。この場合、時として攻撃的でやや冷や汗ものでした。「自然を守るとはどういうことなのか、生物多様性が必要な理由はどうしてなのか。」そういう深い話まで及んだ方もいて私にはすごく面白かった。

 

IMG_1112来場者全員に「協会のQ&A」と今回の催事用に作成したQ&Aの要約版「オオカミを知ろう」(大人も子供も見てもわかりやすいように図や写真を多く取り入れたB4のスライド資料ファイル)を無料で配布した。家に帰ってからももっと気にして考えて欲しいと願う。今回の催事を通じて私は、一体何人の人たちに考えていただき意識を持っていただくことができただろうかと思う。

 

根本的な問題はまず、日本ではオオカミが絶滅していることを知らない人が多いということ。60代の会場近辺の田舎の農家さんも知らなかったくらいだ。これは、今回の催事同様な一般の市民へ向けた取り組みをもっと行うべきだと思った。もう1点大事なことは、「生態学(エコロジー)を人間を含む動植物すべて大きな枠組みで考えようとしない」ところにあると思った。環境に対する意識があまりない人たちの「自然を守ろう!」という概念が、エコ家電、エコカー、省エネ暮らし。そこから見える風景には人工的に作られた環境しかなく、田舎に行けば自然なんてたっぷりある、としか思われていない。それに対し、山村部に住み原発問題、農薬・化学肥料の問題、教育や戦争についてよく話しをし「持続可能な社会にしよう!」と話している人たちも最初は、同じ反応だったが、みんな田畑を耕し、森を身近に感じた暮らしをしていて、シカやイノシシやサルの被害を目の当たりにしている人たちからの共感の声はすごく感じた。

 

IMG_1004「なんで、どうして」質問好きな素直な子供たち。75%以上が日本にオオカミがいた方がいいという投票結果がでた。この結果からもわかるように、教育面からオオカミの生態を学ばせるなど、考える機会を設けることで親や家族にも派生していくことができると実感した。関東から本催事に駆けつけてくれた中学生とそのお父さん、おじいちゃん、弟。お父さんはなんで自分の息子がオオカミに興味を持っているのか、少しわからないところもあったようだが、一緒にパネルを見ていただき、話しをし、親御さんも「オオカミいないといけないのですね~」と納得して、息子の気持ちをもっと理解しようとじっくり会場をご覧になってくださっていた。

今回の催事を終え私から見た「オオカミ」

 

協会に所属されている皆さんがどんな視点、どんな角度からこの問題について入ってこられたかは、まだ入会して半年あまり、お会いしたことがない方々ばかりの前での発言はおこがましく恐縮ですが、まず、国は種の絶滅をさせてしまったことを誤ちだったと認めること。なによりの環境問題の原点であるとも思えます。外来種の問題や種が人間の作り出す環境の変化に耐えられなかったからとして、まるで恐竜が絶滅した時と同じかのような見解で考えることすらしないことも問題であると言いたい。いまの日本での生態系には欠かせない動物であることは明らかで、食物連鎖の回復を早急にすべきである。私たちはトラやライオンの話をしている訳じゃない。日本でのオオカミの必然性はどう考えても不可避であると言える。

 

世界は繋がっている。環境問題は国境を越えられないはずはない。世界中のあちこちで抱えている環境問題、大気・海洋汚染・人口の問題…すべて繋がっている。まずは身近な問題にきちんと取り組んでいただきたい。緑の砂漠、木々たちが泣いている。植物や虫たちも泣いている。人間の精神の面からくる益害論で視るべきではないとこれからも主張するべきであると確信しました。私もそうだが、オオカミを知ることで学べた。これからは自然から聞こえてくる声をきちんと聴いて考えて欲しいものだ。今日の国の対策、予算から見てもわかるように生態学にあまり関心を示さないのは、今日日本が抱える環境問題のすべてにつながっているように思えました。

 

私が問いかけたい、「なんでそんなにオオカミの声を無視するのですか」。

本催事を無事終えることができましたのも、皆さまのお力添えがあったからだと思っております。心よりお礼申し上げます。

 

事前のご相談、阿蘇圏内のシカの被害地のリストアップ:熊本市の小邦 徹様

準備・搬入、搬出のお手伝い:福岡県から堀田 洋様

展示物(パネル、ラミネート写真・キャプション)の提供、開催初日からの数日間(装飾物作成、説明員として)、最終週の数日・撤去まで:千葉県から井上 守様 千代子様

開催最初の週末の説明員として:愛知県から近藤 永味子様

最終週の週末、説明員・撤去のお手伝い:岡山県から藤原 忍様 幸子様

 

本催事の発案を5月GW頃、丸山先生よりお声掛け頂きました。企画から制作までご相談に多くのお時間を頂戴し、展示方法のアドバイス・撤去の際の人員手配などの細かい所までお気遣いただき、本催事を開催させていただきましたことに大変感謝しております。

また、協会の皆さまも告知にご協力いただき、ありがとうございました。「協会に所属している友達から聞いて来た」という方も度々いらっしゃいました。

今回の催事を通し、普段ではお話しする機会のない多くの方々と出会うことができ、得れたものは計り知れません。皆さまも日々の生活の中に、今回の活動を取り入れていただくことをお勧め致します。どうぞ皆さまのお住まい各地で「オオカミフィールドミュージアムin○○」を開催してください。その際は、私も微力ながら協力させていただきます。

当協会の会員様はご熱心な方が多く、驚いております。私もその中のひとりになれたのかなと思うと嬉しく思っております。どうぞこれからも会員のひとりとしてよろしくお願い申し上げます。

 2013年9月9日

 高田美穂(熊本県阿蘇郡南阿蘇村在住)

 

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