効率的なサル用大型ワナの開発 その限界は?自然調節は?
各地でサルが大暴れのニュース。市街地にまで出てきたわずかな頭数の攻撃的なサルに、子供から大人まで襲われて怪我人が続出しています。知恵者のサルたちは屋根や電線などすばしっこく逃げ回るので、捕獲は失敗続き。ところによっては、本格的な群れも出没しています。
こうしたサルを群れごと捕獲できる大型囲いワナが開発されたとテレビで紹介されました。警戒心の強いサルたちは、最初はためらっているようですが、ワナの中に置かれた餌の魅力に負けて1頭が入ると、他のサルも我も我もと次々に入り、結局、みんな悠々と餌にありつきます。だが、これからが問題です。いざ出ようとすると、柵の内側の上部には「忍び返し」があって絶対に外に出ることができない構造になっているのです。これで一網打尽というわけです。
さて、このワナに限らず、生け捕りワナには問題が残ります。捕獲されたサルはどのように処理されるのでしょうか。これについての解説は報道されませんでしたが、知りたいところです。お仕置きをして人里から離れた奥山に返したとしても、そこには別の群れが頑張っているので、うまく定着できるかどうか疑問です。結局、どこか別の場所に移動してまたまた乱暴狼藉や野荒しを繰り返すことでしょう。それでは、動物園などに引き取ってもらったらとのアイデアもありますが、サルはどこでも一杯で引き取り手が見つかりそうにありません。となると、実験動物?安楽死? シカやイノシシのようにジビエとして命をいただき自然の恵みに感謝するというわけにもいかないでしょう。捕獲後の処分は、動物愛護と関係して、かなり難問です。
唯一の天敵であったオオカミを絶滅させたために増え続けるシカ、イノシシ、サルなどの大型野生動物をいかに効率よく捕獲するかということは喫緊の課題であり、大量捕獲のための技術開発が進められています。しかし、サルを含めあらゆる野生動物の行動や個体数は、自然の中で捕食者との関係により適正にコントロールされることが基本です。現在、日本の森林生態系にはサルの天敵がいないのです。これではサルが際限なく増えるのは当たり前です。サルの強力な天敵はオオカミなのです。天敵不在が最大の問題点です。だから、最も大切な基本は、頂点捕食者オオカミの復活によるサルを含む食物連鎖の機能の回復です。オオカミの存在はサルにとっては大きなストレスになります。このストレスはサルの繁殖を抑制する効果を持つことでしょう。このように自然調節によって、サルが森林生態系の中で急激に増加することなく、おさまっていれば、市街地など人里への出没も抑制され、大量に生け捕りされたサルの処分を巡る悩みも軽減されるのではないでしょうか。
ワナ捕獲では、捕食者-被食者との普段の緊張関係を作り出すことはできません。捕獲はオオカミが行う自然調節の補完的手段に過ぎないことを認識すべきです。この認識無くして、人の管理を正当化することは出来ないでしょう。
(井上守)