【書評】オオカミの知恵と愛
ジム&ジェイミー・ダッチャー著
【オオカミの知恵と愛】
―ソートゥース・パックと暮らしたかけがえのない日々―
届いてすぐ読み始めたのだが、すぐに私はなにも手につかなくなった。
読み終えた今もその感動は心身の奥深くに刻まれたまま、私の中にたゆたっている。
著者夫妻はドキュメンタリー映像作家で、実際にアイダホ州のソートゥース山地でテント生活をしながら6年間にわたってオオカミの群れ(パック)三世代とともに暮らした。これはその全観察記録である。
ここには人間とオオカミたちとの愛と信頼の日々が細やかに、そして感動を持って綴られている。毎日、毎晩、カメラと音声の記録を取りながら、狼たちに寄り添い歩きながら、夫妻は厳冬の山中ですら心躍る体験をする。深夜に聞こえてくる狼たちの遠吠え。
オオカミの持つ優れた社会性と家族愛、好奇心、それぞれの豊かな個性と役割もまたつぶさに観察され、記録されている。群れのリーダーに求められる条件は人間にも求められるものと少しも変わらない。
公正で勇敢、理知的で愛情深く、自らの危険も顧みず群れのすべてを守ろうとする勇気など、これらすべてを満たした者がオオカミの群れのリーダーとなる。
私が常々、オオカミが人間より優れていると思える一点は、彼らが怨みや復讐心を持たないことだ。たとえ仲間が人間やピューマに殺されたとしても、全員でひたすら悲しみに打ちひしがれるものの、復讐はしない。これこそが人間には欠けているものではないか。
知性あるその愛情深さは彼ら自身の家族や群れに対してだけでなく、記録者であるダッチャー夫妻にも向けられている。どのページからも生き生きとしたオオカミたちの呼吸が聞こえてくる。
間違いなく素晴らしい感動の一冊である。オオカミへの共感と理解が進むためにこの本が大切な一冊となることを私は確信して止まない。2022年がオオカミ復活の元年になることを心から祈っている。
高瀬千図(作家)
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