大台ケ原の惨状は末期段階:自然保護行政の責任を問う!
アンケート集め:オオカミ復活支持、急増の気配
去る2012年10月5、6日、日本オオカミ協会では、大台ケ原のシカ被害の視察を兼ねてハ
イカー相手にオオカミ復活アンケート集めを実施しました。集まった会員は9名。このレ
ポートはこの時の状況です。
(2012年11月11日記 狼花亭)
○崩壊が止まらない森林生態系
大台ケ原山は紀伊半島南東部、奈良県と三重県の県境地帯に位置する深山で、日出ヶ岳
(1695m)を主峰とし、三津河落山(1654m)、経ヶ峰(1529m)をはじめとするいくつかの山峰
に囲まれた海抜1,300-1,700mの台地状の山地帯です。年降水量は4,000mmを超え、屋久島
とともに日本一雨の多い地域です。そのため、ブナやナナカマド、ミズナラなどの広葉樹
とともに、トウヒやコメツガ、ウラジロモミなどの亜高山帯の針葉樹林が鬱蒼と生育し、
昼でも暗い林床には厚いコケのマットが繁茂していました。西日本では大変貴重な北方型
の生態系だったのですが、今ではその面影は殆ど見ることができません。増えすぎたシカ
によって森林が次々と枯れてしまい、明るいミヤコザサの草原に変わってしまったので
す。生態学で言う『退行遷移』が止まることなく進行しているのです。このきっかけは台
風と言われていますが、シカの増えすぎをなんら手を打たずに放置してきた自然保護行政
の無策と怠慢が本当の原因です。
日本オオカミ協会では、これまで二回の視察を行っています。今回は3回目です。
観察会の度に、シカ害による森林の消失が進み、生態系破壊がすごい勢いで進行しているのを見て、心を痛めています。
このままでは大台の森林は姿を消し、ササ草原に姿を変え、最終的には土壌の流出や崩壊が進んで荒れ山になることは避けられないでしょう。
○間抜けな自然再生計画
大台ケ原の今日の惨状の発端は1959年の伊勢湾台風による森林の倒壊にあると言われ
ています。これがシカの増殖に好適な環境を作り出し、シカの激増につながったのです。
現在、吉野熊野国立公園を管理する環境省は、自然再生計画を作成し、事業を進めていま
すが、計画自体が「間抜け」なのですから、いつまでたっても再生することはないでし
ょう。まだ生き残っている樹木の幹をネットで巻いたり、シカが入らないような区画の
中に苗木を植えたりし始めましたが、区画の中の苗木が立派に育つにはうまくいっても
100年くらいはかかります。うまく成長したとしても、このままではシカに齧られてしま
い、振り出しに戻ってしまうのは目に見えています。シカの個体数調整が欠かせません。
わかりきったことなのに、学識経験者、関係行政、関係NGO・NPOなどを集めた会議を何年も繰り返して、遅まきながら最近ようやくシカの駆除の実施が始まったと聞きますから、見識の無さにはただただ呆れるばかりです。
昨年は約80頭を駆除したと聞きましたが、この程度では到底追いつかないでしょう。うまく減らせたとしても、シカを絶滅させることは許されないことです。シカも大台ケ原の自然生態系を構成する一員なのですから。生態系と釣り合いのとれた低い生息密度をキープするのは人間の能力を超えているのはわかりきったことです。いつまでもハンターには頼れません。ハンターの高齢化と減少は激しくなる一方です。それに国立公園の役割は伝統的な「国民の保健休養に供する」だけではなく「自然生態系の保護」が今後ますます大切になってきます。自然生態系の保護は、本来、人為を排した自然の自己調節作用に任されるべきなのですが、このままでは未来永劫、ハンターによる人為的なシカの駆除を続けなければなりません。しかし、現在のレクリエーションハンター依存は将来的には悲観的です。となると、シカのコントロールはやはりできないということにならないでしょうか。結局、現行の森林再生は将来のシカの食料を増やそうとしているようなものではないでしょうか。
○「道草」が大好きな「無責任」行政
半可通で不勉強な研究者、活動家、そして学識経験者たち
大台の自然を守る究極の解決策は、オオカミの再導入であることは今更説明を要しません。シカを適正密度に導き、それを維持するためには自然生態系による「自然調節」に依存するのが正道です。自然調節は「食物連鎖」によって作用することはわかりきったことです。
「森林-シカ」につながる食物連鎖が壊れたままになっていることもわかりきったことです。それは連鎖の頂点に位置づけられるべき捕食者オオカミを絶滅させてしまったことが原因だということも今や自明の事実です。とすれば、大台ケ原の貴重な森林生態系をシカの過剰から救う究極の方法は「オオカミの再導入による食物連鎖(森林-シカ-オオカミ系)の修復」以外に考えられないことも自明のことです。環境省や農水省(林野庁)、県行政の森林再生計画から抜け落ちでいるのはこのことなのです。
いくら道草好きで腰抜けな自然保護行政でも、オオカミ復活が切り札だということは重
々承知のはずです。ではどうしてこれを明言しないのでしょうか。注射が怖くてお医者嫌
いな子供みたいなものなのでしょうか。これはここだけでなく各地で見られる困った問題なのです。取り巻きに恵まれないためなのでしょうか。行政の取り巻きである研究者も学識経験者も、そして政治家も自然保護団体のリーダーたちも、皆さん同じなのです。多くの国民もそうなのでしょう。揃いも揃って食わず嫌いなのです。
だからオオカミに関する正しい知識を求めようともしないから、会議を何度繰り返しても同じことで「オオカミ復活」を口に出す者がいないのです。この間にも増えすぎたシカはもっと増えて、生態系の破壊は際限なく進みます。環境省は「生物多様性国家戦略」を発表しますが、オオカミの
復活なくして日本の生物多様性は守れません。これを知りながら食わず嫌いで「オオカミボイコット」を続けるのは、自然破壊、生物多様性破壊を見て見ぬふりをしていることにならないでしょうか。ということは、もし「自然保護裁判」があったとしたら、環境行政はシカの共犯罪に問われて間違いなく有罪になることでしょう。
○国民の声を聞け!
オオカミ復活反対意見は今や少数派
皆様、もう心配無用です。オオカミ復活を口にしても、笑われたり、馬鹿にされたり、
非難されたりすることはありません。去る2012年10月6,7日両日、日本オオカミ協会の
9名から成るアンケートグループが大台ケ原のハイカー170人に質問したアンケート調査に
は驚かされます。なんと、賛成が43.7%で圧倒的に多く、反対は僅かに7%でした。大台
の調査数はわずかですので、これだけでは信頼性は高くはありません。しかし、各地から
既に2千人近いアンケート結果が集まっていて、これらを見ると、どこでも大台と同様な
割合になっています。どうやら各地でオオカミ復活賛成意見が急増しているようです。こ
れは、全国各地でシカやイノシシなど野生獣類の被害が蔓延し、自然破壊が目に余るよう
になったためでしょう。明治維新政府によるプロパガンダの産物、そして国民病の感があ
る「赤ずきんちゃん症候群」はようやく終息段階に入ったようにもみえます。いつでも変
化は突然やってきます。アンケートに答えてくれる大台のハイカーの皆さんの和やかで友好的な雰囲気にも雪解けを感じます。
「赤ずきんちゃん病」の特効薬は、理性にもとづく合理的な思考と判断です。これを邪魔するのが偏見です。
偏見に凝り固まったままオオカミの真実を知ろうとしない行政や学者、知識人がこの病気の保菌者なのです。一世紀前、足尾鉱毒事件に対し、信念と勇気をもって農民とともに活動した田中正造は「保身にどっぷり浸かり、百年どころか一年の計も持っていない役人、知識人を信用するな、正直で常に前後を考える人民は人民の経験を信じて一歩も譲るな」という警告を残しています。そして「真の文明は山を荒さず川を荒さず・・・・」とも記しています(小松裕、小学館2012)。まさしく「山河無くして国は無し」なのです。田中翁の言葉のように、私たちが真の文明人であろうとするならば、美しい自然豊かな国土を目の前にした子孫たちが先祖の私たちの努力に感謝するように、勇気を出してオオカミの復活を実現したいものです。オオカミ復活提唱者は今やマイノリティーではありません。主流になりつつあります。オオカミアンケート調査を進めて国民の声を聞いてみましょう。
(JWA 会員: 感想、写真提供 鈴木 宏和)
大台ヶ原へ行く前までは、シカによる影響、特に樹木の枯死などは大台ケ原のほんの一部の地域でしか、起きていないだろうと高をくくっておりました。
しかし、現地へ足を運ぶと駐車場周辺の森の中でも、あちらこちらに剥皮の跡があり、正木ヶ原に到達すると、辺り一面ほとんど生きている木が見当たりません。残っているのは白骨化した木と倒木、風に揺れているミヤコザサだけで、そこへ吹き付ける風がさらにむなしさを誘いました。ここが昔、鬱蒼とした森だったなんて信じられませんでした。予想をはるかに上回る状況に、思わず呆然としてしまいました。もし、このままシカ問題を放っておいたら、いずれ全国の森はこんなつまらない風景になってしまうのでしょうか。今回、事の重大さを目の当たりにし、できるだけ多くの方へ、日本の森で何が起きているのかを伝えていきたいと思います。
(JWA会員: 大槻 国彦)
10数年ぶりの大台ヶ原は、
(JWA会員: 有田悟郎)
大台ヶ原行きは7月22日の自然観察会に次いで二度目です。
前回は観光客として参加しながら、時として百メートル先も見えなくなる雲の中、老案内人の説明も今ひとつでした。そういえば出発前の自己紹介で、ボランティアと言ってました。今回は丸山会長の説明にいちいち感心させられ、特に展望台からの眺めには何をしに来たかも忘れて見とれていましたが、振り返ると先輩諸氏は皆観光客に話しかけてアンケートを取っているではありませんか。私も頑張らねばと、勇気を奮い起こして話しかけ、二人目の方が応じてくれました。三人目の方は既に終わっており、先輩の手際よさに後れを取るばかりで、結局一枚しか取れませんでした。その方の回答がオオカミ賛成だったことがせめてもの救い?つくづく自分の殻を破るのはむずかしいと実感しました。
(JWA会員: 定森美子)
10月入った大台ヶ原は、朝夕は寒かったです。
駐車場はいっぱいで、1km以上ぐらいの路上駐車が続いていました。
私たち(7人)の到着が遅く、山も歩いたせいで、思ったほどアンケートは取れなかったが、お願いした人は皆気軽にOKして応じてもらえました。思いの外奈良市内でシカ害の話を切り出すと、拒否反応がいろいろな形で返ってくるが同じ奈良県のここでは何の引っかかりもなく話せるでストレスがかからなかったです。
奈良県一帯が山間地が多く、過疎が進み、高齢化で放置林や放置田畑が激増しているのが、他の山もこの山のように死骸だらけの木々が横たわる風景に気持ちが萎えたので、晴天のおかげできれいに見渡せた大峰山系に向かい、「自然の神様!オオカミを早く入れられますよう!」と祈っておいたのですが・・・。