世界自然遺産登録20周年を迎えた白神山地に迫るシカ食害の脅威
白神山地が世界遺産登録されてから20年になりますが、急増するシカによる食害という脅威が迫っています。周辺の状況を新聞地方版から抜粋・要約して紹介します。
世界遺産登録20周年を迎えるのを前に開かれた記念シンポジウムでは、白神山地世界自然遺産科学委員会委員長の中静透・東北大学教授は、各地の森で希少植物を食べ尽くしているシカが白神山地近くでも確認され始めていることに触れ、「世界遺産地域だけで解決できる問題ではない。シカの個体数をコントロールするのは難しい」と述べた。斜里町立知床博物館の山中正実館長は「少ないうちに対応しないと手遅れになる。危機感を持って対応していかないといけない」と強調した。
最後に、白神自然環境研究所の檜垣大助所長が「白神山地の自然を次世代に引き継ぐため、地域や立場の違いを超え、議論を深め協力することが不可欠」との提言をまとめた。(以上毎日新聞青森地方版2013/11/25から)
かつては岩手県南部が北限だったシカだが、県境を越え、青森での目撃情報も相次ぐ。白神でも9月、遺産地域から約9キロ地点の無人カメラが姿を捉えた。草食のシカは天敵に捕食されても個体数を維持できるよう繁殖力が強い。しかし、ニホンオオカミが明治期に絶滅し、シカの捕食者の不在が食害を深刻化させている。
11月の猟期を前に青森県は「シカを見たら積極的に撃って」と猟友会に文書で依頼したが、県内での狩猟対象は鳥類が8割以上。シカなど大型獣類と別の銃が使われ、担当者は「そもそも、県内には大型獣を狩る土壌がない」と話す。また、県内にシカは少ないのでシカ狙いのハンターは県外へ出かける。密度の低いシカをどう捕獲するか、有効策は見いだせない。
弘前大・白神自然環境研究所の中村剛之准教授は「誰も気づかない間に被害が進んでいる可能性がある」と指摘。「数年以内に食害は起きる」との見方を示す識者もいる。 (以上毎日新聞青森地方版2013/12/27から)
豪雪地帯の秋田県内には生息しないとされてきたニホンジカやイノシシが近年、目撃されるなど、自然界で変化が生じている。秋田県自然保護課によると、ニホンジカが09年6月、仙北市角館町で確認されたのを手始めに、今月までに計29件の情報が寄せられている。
秋田県猟友会副会長で狩猟歴約45年のベテラン藤原信三さん(70)はこの数年、頻繁に出没するツキノワグマや、北上するニホンジカ、イノシシの被害拡大を危険視している。東北森林管理局の佐藤宏一・自然遺産保全調整官は「(シカが)大量発生すると森林生態系に大きな被害をもたらすため、監視態勢の強化に努めていく」と世界自然遺産・白神山地保護の観点からも警戒を強めている。(以上読売新聞秋田地方版2013/12/7から)
シカもオオカミも絶滅していた雪深い北国に、植食のシカが広く復活するのに天敵のオオカミは絶滅したままといういびつな自然が生じます。すでに食害が著しい全国各地と同じ脅威にさらされます。捕獲に当たるハンターの減少と高齢化はすすんでいます。環境省は、ジビエで「厄介者をおいしく退治」と考えているのでしょうか。しかし、狩猟のエキスパート・オオカミの再登場なしに対策はありえません。自然の摂理を理解できずに世界最大級のブナの原生林を守り続けることができなければ、私たち日本人は世界に大変恥ずかしい思いをしなければなりません。
(井上 守)