議員の皆様、なにかお忘れではありませんか?
野生獣の害急増 どうする/猟友会と自民議連が動く
(夕刊フジ 2011・6・28 鈴木棟一の風雲永田町 4240)
「大震災に気を取られている間にもイノシシ、シカ、サルなどの野生獣が猛烈に増え、農産物の被害額だけでも213億円(2009年)と急増している。自民党は二階俊博、武部勤らが中心になって64人の鳥獣捕獲緊急対策議連をつくり、法改正に向けて会合を重ねている。」この記事の抜粋である。この推進者の大日本猟友会の佐々木洋平会長(元代議士)は、農村社会の衰退と崩壊、環境省などによる野生鳥獣保護の行き過ぎ、そしてハンターの激減が原因だと指摘する。また、事務局長の鶴保庸介参院議員は、駆除個体の有効利用が進んでいないからと言う。そして、捕獲報奨金増額のための交付金、銃の管理規制緩和のための法改正、ジビエ料理の普及、外国人ハンターの導入がその対策だという。(「野生獣の害急増どうする/猟友会と自民議連が動く」夕刊フジ 2011・6・28 鈴木棟一の風雲永田町 4240)
記事を見る限り、この提案に別に目新しいものはなく、これまでのなぞりに過ぎない。だから、期待もできない。
ハンター減少は銃砲所持規制の厳格化が原因とは各地で耳にする。狩猟規制に不合理な点は少なくない。何らかの法改正の必要性があることも確かだ。「道楽」(同記事、佐々木氏)ハンターのボランティア活動に甘えている事態でないことも確かだ。当面、捕獲奨励金増額による刺激も必要であろう。でも、お金がかかる。全国の自治体の半数以上が獣害問題で悩む現状では、財政的な限界にすぐに突き当たる。それでなくても巨大な財政赤字を抱えているわが国である。
ジビエ料理をはじめとした駆除個体の有効利用が叫ばれ、国の補助金を元手に何年も前から、各地で取り組みが始まっている。だが、効果はどうなのか。採算が取れない問題が指摘されており、順調に回転しているところは稀と聞く。ジビエ料理は欧州が盛んだ。その本場でもシカとイノシシの害に困っている。となると、その駆除効果は期待できそうもない。経営上の問題も含めてさらに緻密な検討が必要であろう。激害地のシカの生息密度は1平方キロメートル当たり10頭以上である。今では20頭を超える地域も珍しくない。一方、生態系や農林業に被害を及ぼさない適正密度は1~2頭である。こんな低密度になったらシカ産業の成立はまず見込みが立たない。シカを減らすのかジビエ料理を普及させるのか、二兎は追えないのだ。シカ肉処理施設の存続は行政の補助金が続く間だけである。
ポイントは、減少するハンターを増加に転じさせることができるかどうかである。狩猟特区への外国人ハンターの誘致は、銃刀法との関係で実現は先ず無理だろう。仮に年間十万人誘致したとしても(実際はせいぜい数百人止まりだろうが)、危惧されている減少ハンターの穴は埋められない。現在のハンターの動向は、彼らの主要な出身元である農山村社会の動向にかかっている。この動向は国の産業政策と国際的な経済関係に支配されていて、回復に希望は持てない。失礼ながら、この程度の姑息な発想では展望が湧かないのは当たり前というのが正直な感想である。
というわけで、多くの議員を集めた提案は、まるで無駄とは言わないまでも、本質的な解決にはつながらないと言わざるを得ない。この議連に集まった「国家百年の計」にかかわる議員諸氏がこの程度のことをお分かりでないとは思えないから、この「駄目もと」的提案の向うには何か決定打ともいうべき秘策を用意されておいでで、今はその提案の機会を窺っておいでなのだとみるのは穿ち過ぎだろうか。ローコストでハンターの減少の穴を埋め、しかもハンターが到達できない奥山までカバーして、生態系復元、生物多様性保護が可能なのは頂点捕食者オオカミの復活をおいて他にないのである。
(2011年7月2日:丸山直樹)