オオカミ絶滅に関する研究者の変な(偏な?)見解

少し前のことになるが、2010年10月5日付け朝日新聞の科学面にこんな記事が載った。名古屋でのCOP10を目前に絶滅種にスポットを当てたものであった。以下に記事の一部を引用する。

固有種の絶滅、多様性崩す

名古屋市で今月開かれる国連地球生きもの会議(COP10)では、絶滅の危機にさらされている生物をいかに保護していくかが重要なテーマだ。日本でもこの数百年の間に多くの種が絶滅したが、どんな生きものたちがいたのだろうか。絶滅原因や背景を探ると、今後の課題が浮かび上がってくる。

環境省のレッドリストによると、日本で「絶滅」した生物種(亜種も含む)は動物46種、植物74種の計120種ある。

哺乳(ほ・にゅう)類は4種。多くの人がまず思い浮かべるのはオオカミだろう。

日本にいたオオカミは2種。本州、四国、九州にいたニホンオオカミが最後に確認されたのは1905年、奈良県。農耕文化の日本では、農作物を荒らすシカやイノシシの天敵として、その名の通り神格化されてきたが、18世紀に狂犬病が流行すると、駆除されるようになった。だが、「群れをつくるオオカミが生存するには、広い生息地が必要。明治時代以降に森が切り開かれたのが最大の原因だろう」と、国立科学博物館の川田伸一郎研究員はみる。

ニホンオオカミより大型のエゾオオカミは、明治維新後に、北海道での開拓地で軍馬用の子馬が襲われるため、2000~3000頭が射殺、毒殺されたのが大きい。

オオカミの絶滅はやがて地域の生態系に影響を与えた。イノシシやシカが急増する一因となり、今も各地で食害などの被害をもたらす。      (引用ここまで)

 

JWA会員には敢えて説明は不要だろうが、オオカミ絶滅原因に関する川田氏のコメントは、不勉強と言わざるをえない。

オオカミ絶滅最大の原因は明治以降の“徹底した駆除”にあることは、少なくとも駆除の記録が残っている北海道・東北においては間違いない。

明治期には森林開発はそれほど行われていなかった。たとえば、森林開発とりわけ拡大造林、一斉単一樹種同齢林方式による人工林造成、リゾート開発、スキー場、 ゴルフ場開発などは戦後のことで、オオカミの絶滅期とは全然重ならない。したがって“森が切り開かれたのが最大の原因”というのは、事実に反したまったくの的外れな見解である。

また、明治期はオオカミの駆除と同様、シカ、イノシシ、カモシカ、クマ類などの乱獲時代であり、オオカミの自然餌が極端に減少したことも絶滅原因のひとつであると考えられる。

このコメントを述べた川田氏についてウイキペディアで調べてみた。

『川田 伸一郎(かわだ しんいちろう)日本の動物学者。岡山県生まれ。現在、国立科学博物館動物研究部脊椎動物研究グループ研究員。研究テーマは「モグラ科食虫類の系統分類学」で、「モグラ博士」の呼び名もある。』

業績、専門分野をみるかぎり、川田氏は、オオカミや野生動物の保護管理については、門外漢ではあるまいか。

しかし、新聞の読者の多くは、この内容を学識者の信頼のおけるコメントとして受け止めるだろう。とすれば、この話題に関するコメンテーターとしては不適当な人材選択であり、担当記者・新聞社の不勉強は責められるべきと考える。大手新聞社の本社は、東京あるいは大阪であり、おそらく手っ取り早く取材可能な場所に籍を置く研究者が選ばれたということであろう。

さて、川田氏のコメントについて、なぜこうした発言が出たのか、私は以下の2つの可能性があると考えている。

1.自分の専門外のテーマであり、純粋に知らなかった。

2.「生息地の減少」が絶滅の主原因とコメントし、「だからオオカミを入れても、もはや生息環境は残されていない(=復活は困難)」ことを主張したかった。

前者であるとすれば、コメントする資格がないのにコメントした点が不誠実と言わざるをえないが、まだ救いようがある。後者であるとすれば、“意図的にオオカミ復活にマイナス材料を出すために、敢えて根拠もない生息地減少説を主張した”ことになり、きわめて悪意に満ちた発言といっても過言ではない。川田氏に真意を問いたいところである。

シカ関連のシンポジウムにおいて、シカ保護管理の第一人者と称される某氏が述べた「イエローストーンに再導入されたオオカミで、国立公園外へ出た個体はすべて駆除されている」との虚言にしても同様だが、いわゆる学識経験者と言われる方々が自らに都合の悪い事実を揉み消すかのように堂々と法螺を吹いているようだ。

この記事は、これからもオオカミに関する真実を伝え続けていかなければならないと、志を新たにする機会を提供してくれた。(井上 剛)

 

 

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