オオカミがクマの天敵?―FB記事から
FBの記事で知ったのですが、最近の北海道放送の報道によると、札幌市のホームセンターでの売れ筋はクマ対策グッズとのこと。札幌市内のヒグマは今始まったことではなく、ここ数年の現象。そのグッズとは、第一位が「熊鈴など音の出るもの」。最近ではあまり効果が無いと言われているが、他に良いものがないので仕方がないか。第二位が「クマスプレイ」。これは不幸にも遭遇した時の撃退用である。スプレイ液の主成分は唐辛子の辛み成分のカプサイシン。北米のグリズリー(ヒグマ)やアメリカクロクマなどのクマ生息地では売れ筋の推奨品で知られている。国立公園の入口でも販売されていて、ハイカーは気軽に入手できる。価格によってはレンタルのものもあるという。
ここまでは良いとして、問題なのは第三位、「オオカミのおしっこ」。これにはビックリ仰天。しかも、オオカミはクマの天敵で、外国の農家でよく使われているとのコメント付きである。ほぼ半世紀に渡るワイルドライフ研究者人生の筆者だが初耳である。これが事実なら、グリズリー(ヒグマ)とアメリカクロクマがごく普通に生息している米国のイエローストーン国立公園では、オオカミを避けるために公園外に移動しても不思議ではないが、残念ながら、そのような話を耳にしたことはない。クマたちは公園のいろいろな場所でオオカミよりも目につく。オオカミがクマの天敵どころか、クマがオオカミの獲物を取り上げてしまうのが普通である。クマはオオカミを恐れていない。これは、北米だけでなく欧州でも同じである。イエローストーン国立公園とポーランドでヒグマとオオカミの衝突現場を目撃したが、何れも敗者はオオカミ。ブルガリアやロシアはオオカミもヒグマも多数生息しているが、オオカミがヒグマの天敵などという話は聞かない。残念ながら「オオカミのおしっこ」がヒグマ避けに効果があるとは言えない。公共放送は、視聴者の関心を引くことだけでニュースを流すだけでなく、その真偽の掘り下げも欠かせない。でないと、いかがわしい商品の普及に一役買ってしまう可能性は小さくない。
「オオカミのおしっこ」は以前からシカやイノシシの忌避剤として売られている。ペットボトル1本7千円とか8千円で販売されているらしい。時々、地方のオオカミ講演会で実際に購入した人から「効果はあるのか」と質問されるたことがあったが、この返答には困ってしまう。質問者は良い答えを期待しているのだが、筆者の答えはそうではない。誠にお気の毒だが、動物生態学の解釈は「オオカミのおしっこ」の効能は否定せざるを得ない。もし、オシッコに効果があるとしたら、シカやイノシシなどオオカミの獲物は、オオカミのナワバリからいなくなってしまうだろう。そしたらオオカミは生きていけないではないか。どうしてこんな単純な理屈がわからないのか不思議である。「溺れる者は藁をもつかむ」の譬えである。この国の社会には生態学的な知識・情報をもっともっと普及する必要性があると思う。
ところで、現在の日本ではオオカミのペットとして飼育は行われていない。商品にして販売するほどの量のオオカミのオシッコは一体どこから入手するのだろうか。おかしい。気になる。
私たち「日本オオカミ協会」の会員にはそうした社会的努力が運動として求められているのである。
最後に一言。FBユーザーの何気ない拡散記事も同様である。オオカミの復活と保護を目指す仲間たちには特にお願いしたい。無邪気な記事のコピー拡散は功罪背中合わせ。ご用心!
【会員からの声】
オオカミおしっこですが、知人が猿と猪に畑を荒らされ、実験し全然効果なしと確認済みです。ましてや熊には無いでしょう。ですが、多くの方が効果を期待した理由のひとつは映画「おおかみこどもの雨と雪」では?
映画の中でオオカミ人間の子どもが(オオカミ人間と人間のハーフという設定)、おしっこをかけた畑だけ猪に荒らされず沢山収穫できるというシーンがあります。映画は大変ヒットしました。舞台が日本だと言っているわけではなく、その国にオオカミが生息しているか?は曖昧でした。ですが森で生きる決心をしたオオカミ子どもは、キツネに弟子入りしていました(汗)
映画全体としては(子どもの成長や独立について考えるには)良い作品だと感じていますが、生態学など、様々な面で困った部分は多いのだと思います。
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