生物多様性保全活動促進法成立はオオカミ復活の追い風となるか?

引き続き、動向の注視が必要!

2010年12月10日に公布された「地域における多様な主体の連携による生物の多様性の保全のための活動の促進等に関する法律(生物多様性保全活動促進法)」を受けて、全国9か所(沖縄、熊本、札幌、仙台、大阪、名古屋、東京、高松、岡山)で、説明会・意見交換会が開かれている。環境省は、法律の内容を説明するとともに、施行上の基本方針を検討する際の参考として意見交換を行っている。法律の詳細は下記をご参照いただきたい。

説明会は、札幌には札幌支部の佐藤正道氏が、名古屋には和田一雄氏が、東京には南部成美氏が参加した。

佐藤氏は、すでに絶滅している動物もこの法律の対象となることを質問で確認したが、他の参加者がオオカミについて聞いたところ、要を得た回答は得られなかったという。和田氏は、「環境省が林野庁と水産庁と話し合って、生物多様性のために少しは働くという趣旨だったが、実際に働いてみないと何とも言えない」とのこと。

参加希望者が多く広い会場に変更して行われた東京では、南部氏が、シカ害について、奥山地域における生物多様性の急激な減少、水系や沿岸部への影響拡大などへの対応を質問したところ、若い担当者が「この法律は“地域の人々が進める活動”を促進するのが目的のもの。地域にできる範囲のことをやってもらうのです。国や中央が主導するのではなく、自然行政の主体はあくまで地方。生物多様性の“底上げ”を目指している」と回答。上司があわてて「われわれも、自然領域のシカの影響は深刻なものと考えています。それについては鳥獣保護法とか特措法とか、従来のものがありますので、それで対応していきます」と付け加えた。

企業関係者が半数を占めた東京を除き、いずれの会場も出席者のほとんどは各地方の行政担当者が占めていた。促進法の条文に「NPO法人等は地域連携保全活動の計画の案を作成することを、市町村に提案できる」「提案された市町村は必ず可否とその理由を通知するよう努める」とあるので、国から丸投げされたともいえる地方の行政担当者は真剣にならざるをえないであろう。

また、説明会・意見交換会には、地域連携保全活動の促進に関する基本方針などを検討するために召集された検討会(生物多様性保全活動の促進に関する検討会)の委員が毎回約2名ずつ参加している。札幌では、神奈川県秦野市の副市長により里地里山保全活動が紹介され、東京大学の下村彰男教授は主眼が地域再生にあることを講演した。検討会の顔ぶれについて、「オオカミ復活については望み薄」と丸山直樹会長。キーストーン種のオオカミ復活に環境省は相変わらずの及び腰で、その環境省が選んだメンバーだからである。

オオカミ復活への追い風になる法律とは思えないが、南部氏は次のような印象をもった。「裏を返せば、“シカ害発生の根本原因は生態系のバランスの崩れだから、そこから何とかするべき”と声をあげる自治体やNPOがあれば、その活動を支援し促進することを環境省は拒むことはできない、ということ」。もし、この法律に希望が見いだせるとすれば、この点くらいである。平成20年に成立した生物多様性基本法には「環境基本法(平成五年法律第九十一号)の基本理念にのっとり、」とある。だが、この間の15年でいかに生物多様性が減少したか。生物多様性保全活動促進法で果たして生物多様性の保全・回復にどれだけの成果をあげられるのか。引き続き、動向を注視していく必要がある。

また、基本方針策定にあたり、パブリックコメントを募集があるという。日本オオカミ協会は、生物多様性保全・回復の根本的解決策である頂点捕食者“オオカミ”の復活をより強く求めていく予定である。

【参考資料】
生物多様性保全活動促進法についてhttp://www.env.go.jp/nature/satoyama/conf_pu/22_03/3_shiryou2-2.pdf

生物多様性保全活動促進法に関する説明会・意見交換会の開催について(お知らせ)
http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=13351

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