日本へのオオカミ再導入実現のために

イノシシを知るための講演を聞いて

千葉県はシカ、イノシシ、サル、キョン、アライグマ、アナグマ、ハクビシンその他いろいろな野生動物被害が増えていて、県南部は千葉サファリパークなどといわれます。

県北部の千葉市も同様で、6月には一つの箱わなに15頭のイノシシが捕獲されて話題になりました。 2017年以降5年間でイノシシ捕獲数は12頭から2022年度145頭に増え、5年で12倍になったと、これもニュースになりました。

行政も困っていて、千葉市動物公園でライオンやハイエナへ駆除イノシシの屠体給餌を実施した事例報告会、千葉市科学館でイノシシの生態等についての講演などの行事がありました。

9月24日、千葉市科学館で国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 平田滋樹上級研究員によるイノシシの生態、被害対策等に関する講演があり、会場には子供も含む多くの人が来ていましたました。

そこで、日本と欧州でのイノシシの生息環境、狩猟等の違いについての説明がありました。しかし、欧州に増えているオオカミなど天敵について全く触れられなかったので、講演後「天敵のオオカミの存在が大きな違いではないか。なぜ欧州の天敵に触れられていないのか」と質問しました。翌日科学館を通して、「人とのすみわけが困難との説明は分かりましたが、イノシシとオオカミの関係については、難しくて理解できませんでした。何かわかりやすい参考資料等がありましたらば教えていただきたい」と再質問をしました。

それに対して、科学館を通して次の回答をいただきました。(以下抜粋)

講師回答

オオカミとイノシシとの関係ですが、例えば私が調査等を行ったフランス、ドイツ、リトアニアでは各国でのオオカミの生息推定数がフランス100頭程度、ドイツ40頭程度、リトアニア600頭程度であり、それぞれの当該国のイノシシ生息推定数や捕獲数と比較しても影響が少ないと考えられています。(オオカミの生息場所が極めて限られているため)

一方でロシア等におけるアムールトラの場合にはトラの餌となる他の野生動物のうち、イノシシが占める割合が40%以上とイノシシへの依存が高く、豚を放獣するかどうかの検討が行われているとご紹介しましたが、アムールトラの個体数も500頭程度と絶滅が危惧されている状況にあります。

この事は高次の捕食者(オオカミやトラ)はイノシシやシカの個体数増加を抑制する効果はあっても、現在の日本におけるイノシシやシカの個体数を大きく抑制するまでの効果は得られにくい可能性が高いと考えられます。また、オオカミがまだ生息していた江戸時代にもイノシシやシカの被害が発生しており、かつ野犬が多い地域でもイノシシ被害が深刻な状況にあるという報告もあるため、オオカミのイノシシ等の捕食の効果を否定はしませんが、オオカミを日本で再導入してイノシシの数をコントロールすることは困難だと思います。

文献や書籍等についてですが、

野生動物管理側(食べられる動物側)の論文等はほとんどありません。

対象実験などができずに科学的な比較が困難だから、などが理由に挙げられます。

なお、上記の生息推定数等についてはIUCNなどの報告書に記載されていますが、豚の放獣の検討やヨーロッパのイノシシの捕獲や被害状況等については公的機関、国際会議等での情報のため、まだ一般公開はされておりません。

イノシシの推定方法等もまだ研究段階にあるものが多く、ご質問の内容に明確に応えられる状況ではないこと、御了承いただければと思います。

(回答以上)

ドイツのオオカミの数は2008年頃の情報で、古過ぎます。もしかして知っているのにあえて知らぬふりをしているのかな、知っていたらば失礼かな、と思いながらも、次の意見を送付しました。

ドイツでは、NABU(ドイツ自然保護組織)ホームページによると、オオカミは2000年に初めての群れが定着した後1000頭近くに増えています。

またフランスは500頭に近いと聞いたことがあります。

ドイツでは全土に広がって増加中です。(図1のとおり)

図1

ドイツのオオカミ生息状況

ザクセン州の東側は、ほぼ全域がオオカミ生息域になっています。(図2のとおり)

図2

ザクセン州のオオカミ

獲物は8割がシカで、2割がイノシシです(図3、図4のとおり)

図3

オオカミの獲物(ドイツ)

図4

オオカミの獲物(スロバキア)

オオカミの獲物(スロバキア)

捕食の効果は無視できないと思います。また、EU先進国の多くは、100数十年捕食者が絶滅していましたが、狩猟は今後捕食者が存在する自然環境で野生動物をコントロールするように変わっていくのではないかと思います。

自然環境を見る限り日本と大きく異なると思います。

(意見以上・添付図は講師に送ったものとは異なります。)

私の感想ですが、反対理由に、オオカミ再導入されたイエローストン公園は四国の半分の面積で、人と自然の領域が分かれていることをご存じか、日本は狭いですよ、といわれます。今回もゾーニング・人とのすみわけ困難の説明にありました。

改めてザクセン州を調べると、面積18,400K㎡、人口408万人(四国18,300K㎡、358万人)で四国とほとんど同じです。森林は27%(四国74%)、人口密度は221人/K㎡(四国196人/K㎡)です。州都は、州のほぼ中央にあるドレスデンで人口51万人、陶器で有名なマイセンが近くにあります。このザクセン州には、現在31パック(1パックは平均6頭くらい)、4ペア、1単独個体のテリトリーがあります。

図2を見るとテリトリーは、市街地に隣接したり、市街地や集落を取り込んで存在していることが良くわかります。そこに牧場主や狩猟者等との軋轢はありますが、危険な事故は全く起きていないことは皆さんご存知のとおりです。オオカミと人との共存が広がるためには、軋轢をなくす様々な対策と多くの利害関係者による合意が必要です。議論や調査研究が行われていますが、オオカミと共に生きることを選択した保護・愛護を越えた強い意思が感じられます。オオカミの生息密度が高いザクセン州東部ラウジッツ地方の土地利用は図5のとおりで、森林、農地、放牧地、住宅地など様々な利用形態の土地は混在しています。

図5

ドイツ・ラウジッツ地方の土地利用

オオカミは広大な自然の中で生きる強い動物というイメージがありますが、十分な獲物と安全に子育てができる環境で、住民の理解が得られれば、静かに共存する臆病な捕食者です。また、トラやオオカミ他高次捕食者絶滅の原因は、人間による狩猟であったことを広く理解してもらいたいと思いました。

井上守

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